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「けど、どれも私の望むものではないの。私が欲しいものはただ一つ。そしてそれは、簡単に手に入らない」
静かな眼差しで話を聞いていたディーは、眉を跳ね上げた。
「ルシルが物をねだるなんて珍しい。何ですか?」
「それは」
口ごもってから、ルシルは言葉を慎重に選び、そして打ち明けた。
「舞の稽古の時、お姉様方が教えてくれたの」
「何を?」
「『生まれて初めて愛を確かめ合い、口づけを交わした相手とは永遠に繋がりが約束される』って。どんな禍や困難があってもね」
それを聞いたディーは「ちょっと待って」と話を中断した。
「信じているのですか?」
「はい」
ルシルの望みを知って、ディーは何やら考え込むように顔をしかめた。
「最近、よく貴族の御子息が訪ねてくるの。それがあまりに積極的で、何を考えているのかわからない時がある。社交的なこととはいえ、いつもここが痛くなる」
ここ、と言ってルシルは自分の胸に手を置いた。
「ディーは私のことが好きだって言ってくれたけど、それは皆と同じ敬意なの? それとも愛なの?」
寡黙な青年はしばし沈黙し、「両方です」と答える。
どっちつかずの返答にルシルは納得しなかった。
「私はディー以外の人と結婚したくない。貴方を愛しています。でも……」
言いかけてルシルは下を向き、か細い声を落とした。
「私は貴方の気持ちをまだ聞いていない」
◇
時刻は午後十時五十分。ひかるは消灯した自室の中央に立った。パジャマではなく、シャツにパーカーを羽織り、下はズボンを履いている。そしてなぜか運動靴を手に持っていた。
「じゃあ、行くよ」
「うん」
ひかるの肩には鳥の姿のゼノが乗っている。やがて個室は白く強い光に包まれ、光が収まると彼女は消えていた。
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