新月の再会

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 ◇    ひかるの父は、新聞社の国際政治部で記者をしている。できるだけ夕飯を一緒にしたいといって、午後七時過ぎには帰宅するが繁忙期はそうもいかない。急な仕事が入ることもしょっちゅうで、一人で食卓につく夜は、ひかるにとって日常に等しかった。  食事は休日に父と料理したものを冷凍しておく。今夜はカレーにしようと決めていた。特に理由はない。  冷凍庫からルーの入ったタッパーとラップされた白米を取り出す。簡単なサラダも用意。ふと冷蔵庫の中を見渡して、あるものが切れていることに気がついた。  父と娘の朝食に必須のアイテムである牛乳がない。疲弊した父に、「帰りに牛乳買ってきて」と頼むのは後ろめたかった。  時刻は午後六時五十分。半袖の上からカーディガンを羽織った。ズボンのポケットにしまっていたスマホを取り出す。ケースにストラップをつけて首から下げ、近所のコンビニへ赴いた。  ところがしかし、今夜に限って牛乳が品切れだった。確実にゲットするためスーパーへ路線変更する。二十分ほど歩くことになり、明かりの少ないビル街に踏み込んだ。  通りには、電気の消えたビルが左右に軒を連ねる。遠くから自動車やバイクの排気音が聞こえ、暗闇の静寂に不気味に響いた。
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