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◇
塔の上に、人目を忍んで会っている王女と剣士がいた。悩める姫に彼は言う。
「俯かないで。あなたは前を向いて」
ルシルは顔を上げた。ディーは自若に続けた。
「ルシルには多くの役割と使命がある。だから自分が望むことと、周りから望まれることが違うことに苦しむことがあるかもしれません。でも、苦しくても一人ではない。それだけは忘れないで」
「そういうのは、兄様やゼノも言ってくれる。 私はもう世間知らずの子供じゃありません」
話をやんわり逸らされていると思ったルシルは肩を落とした。
「もう。私が言ってるのはそういうことじゃなくて……」
また俯きがちになったその時、ディーは突然、ルシルの腕を引き寄せ、片手を彼女の背中に回した。
「ディー?」
決して強引さはなかったが、驚いたルシルは慌てて顔を上げた。すぐ近くには彼の黒い双眸がある。僅かな青白い灯りは素顔を神秘的に照らしていた。
「私はあなたを愛しています」
そう言うと、ディーはルシルと唇を重ねた。
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