思慕と追憶

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 突如、ディーはひかるとの距離を二歩ほど詰めた。お互いの体は急接近する。  次いで、ディーはひかるの片腕をそっと引っ張るともう片方の手で彼女の肩を抱き寄せた。 「ディー?」  ひかるはこれまでディーを見てきて、自分の体に触れるのを敬遠しているとわかった。それは良い意味でも悪い意味でもなく、彼なりの姫との接し方なのだろうと察しがつく。  ただこの時、ディーはひかるをしっかりと抱きしめた。しかも頭がしっかり彼の胸に埋まるような体勢で。 「気をつけて」  囁くようにひかるに合図する。次の瞬間、黒衣の六人組が空から降りてきて二人を取り囲んだ!  ディーに抱かれ視界の悪かったひかるには、一体どうやって彼らが現れたのかわからなかった。 「ティスハルトのヘルブライト」  ディーはそう呟いた。 「ルシルのオトラを狙っています」  そういえば、二日前に魔獣に襲われた時にもゼノが同じことを言っていたとひかるは想起する。 「この人達は何?」  彼らはみな上下黒の長袖、長ズボン、長靴を履いており、顔は鉄の仮面で覆われていた。耳と目の周り以外は肌の露出がなく、背中に剣を背負っている。 「彼らは剣士の屍に人工オトラを埋め込まれています」 「それって、ディーと同じってこと?」  喫驚してひかるは瞼を広げた。 「いいえ。彼らにはもはや自我がない。指示された対象を破壊するか、自らの肉体が致命傷を負うまで動き続ける人造戦士です」 (——人造戦士!?)  黒ずくめの刺客達は次々と鞘から剣を抜き始めた。キーンという金属音が由々しき局面に入ったことを告げている。
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