思慕と追憶

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「ゼノはおそらくヘルブライトが仕掛けた障壁に阻まれている。彼らを殺さない限りこちらへ来ることはできない」  ひかるは恐怖のあまり息が乱れ始めた。  王女という立場上、ルシルが命を狙われることはある。だが、ひかるはこれまで殺されそうになる場面に遭遇したことがない。  無意識のうちにディーの服をぎゅっと握っていた。ひかるは引け目を感じながらも、縋らないと正気が保てないほどにおののいている。  「聞いてルシル」  頭上からディーの低く淡い声がした。ひかるは怖さを耐えて耳をすませる。  「私はあなたに残酷なものを見せることはできない。あの時のようなことは、二度と繰り返さないと誓います。だから……」  言葉が止まった。ディーの腕の中でひかるは顔を上げる。彼が何をしようとしているのかわからず、ただ漠然とした不安が募った。  するとディーは、まるでひかるの恐怖心を宥めるように小さく口角を上げた。 「ディー、何を」 「信じて。あなたを必ず守ります――」  その言葉を残し、ディーは片手でひかるの目許を隠す。彼の手に視界を封じられた直後、ひかるの意識は完全に途切れた。    ◇      瞼がぴくりと動き、まつげが震えた。閉じていた目を開けると、ベージュ色の天井と照明が視界に入る。ここはどこだろう。訝しげに顔を横に向けると、見慣れた目覚まし時計があった。秒針は動かず、午前六時五十分で止まっている。  はっとし、慌てて上半身を起こすと、そこは自分の部屋だった。カーテンを開けてみると外は快晴が広がっている。
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