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さよならの向こうへ
「でも一つだけお願いがある。最後にどうしても行きたいところがあるの」
ひかるはディーに行き先を告げた。彼が場所を尋ねるので、その方角を指差す。
「あ、でもバスもないし。どうしよう」
するとディーはひかるのそばに来て、彼女の肩に手を回した。
「どうしたの?」
また、刺客の襲来かと危ぶんだ。ディーはひかるの膝の裏を持ち、軽々と持ち上げる。
「掴まって」
そう言うとディーはひかるを抱きかかえたまま、先ほど指差した方向へ歩き始めた。続いて高く飛翔し、ビルの最上階に登る。羽ばたくようにジャンプしながら建物から建物へと移動し、あっという間に目的地付近に着いた。
ディーはそっとひかるを下ろす。
道中、まるで空を飛んでいるような気分になったひかるは、目が回ってしまった。
「あ、ありがとう」
お礼を言ってほどなく、そこから青々とした並木道を歩いてゆく。やがて閑静な共同墓地にたどり着いた。
敷地内に入り、ひかるは迷わず通路を進む。
ある墓石の前で立ち止まり、御影石を見つめた。
「これね。お母さんのお墓なの」
永原ひかるの母のことだよ、とひかるは黙って後ろを歩いてきたディーに言う。
「私のお産の時に死んだって」
写真でしか見たことのない母。ひかるは、ずっと心にくすぶっていた想いを明かした。
「ゼノと話して思ったんだ。私がいなくなれば、お母さんは死ななくてすむ。私を産まなかったことになるから」
別の子を出産する時に命を落とす可能性だってあるだろう。けれど、そうならないようにと、ひかるは厳かに手を合わせた。目を閉じて言う。
「変なの。一昨日までは家族も友達もこの町が恋しくなると思った。でも今はそんなに思わない。悲しくもないの」
名残惜しまないのは冷たい人間だ。そうやって自分を非難しかけた。けれどもそれを飲み込んだのは、卑屈になってしまったら、この先に待つ見知らぬ世界への旅立ちに心が折れてしまいそうな気がしたからだ。
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