さよならの向こうへ

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「ねえ、ディーの両親はどんな人?」  気分を紛らわせるためではなく、ひかるは純粋に聞いてみたかった。 「私は両親を知りません。市場の裏路地に捨てられていた孤児でした」  全く予想外の答えにひかるは唖然としてしまう。 「通りすがりの舞人に拾われました。ロドという人で、彼に育てられた」 「舞人って?」 「ロドは旅をしながら剣舞を披露する旅団の団長でした」  剣舞と聞いてピンときた。ディーの剣術は見事だが、かなり独創的なものである。天性の技巧は曲芸に通づるものだった。 「私の祖国はアルナリエではありません。遠く離れたヴァセトレという国です。旅路の果てにアルナリエに来ました」  今更ながら、国がひとつではないことに気づかされる。やれ戦争やれ和平だのというのだから、アルナリエのある世界にも様々な国があるのだろう。 「それはどんな国?」 「アルナリエほど華やかな芸術文化はありません。国は工業で栄えてきました。腕利きの武器職人が多く、子どもたちは武術を学ぶことを義務付けられています」  ディーの話にひかるは興味津々だった。どうやら向こうの世界では、他国間のいざこざが絶えないらしい。皇帝が支配するヴァセトレ帝国は強大な軍事力を誇るが、それは自衛のためだ。ところが隣国のティスハルト帝国は、「ヴァセトレが侵略を企てている」と言い張って、両国の関係はじりじりと険悪さを増している。ティスハルトは国土こそ広いが、格差社会が深刻で治安の悪い地域も多いということだ。 「ティスハルトの村を訪れた時でした。村が盗賊に襲われ、旅団の仲間は皆殺しにされました。死に際、ロドは私に剣をくれた。そして言ったのです。『殺すのではなく、守るために剣を振りなさい』と」 「……それは辛かったと思います」  表情の変化しないディーとは逆に、ひかるは顔を曇らせた。
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