さよならの向こうへ

3/7

11人が本棚に入れています
本棚に追加
/44ページ
 ゼノからアルナリエの話を聞いただけでも情報量の多さに頭痛がした。他国の事情も含めれば、まだひかるが知らねばならないことは山積みなのである。 「ねえ、一つ聞いてもいい?」  ひかるは正面の墓碑を眺めながら言った。ディーの返答はないが、それをよしとして続けた。 「グレン国王って暴君? それとも聖君?」  突飛な質問だったのか、ディーはゆっくり瞬きを三度ほどしてから答えた。 「聖君です」  そうくると思っていた。だからひかるは「どんなふうに?」と問いを重ねる。 「国王陛下は、戦いではなく話し合いによって解決する姿勢を貫いてこられたお方です。悲願であったファメア共和国と同盟を実現したのも陛下です」 「……そう」  阿っているようにも聞こえない。よき父親であったかはともかく、国政においては人望の厚い君主だったのだろうとひかるは憶測を巡らす。  そこへ、どこからともなく声がした。 『ルシル』  ゼノの声だった。上から聞こえたような気がして空を見上げると、大きな魔法円がドームのように出現している。 『ディーから、あなたは帰還する決意を固めたと聞いているけど?』  空からゼノの声は問う。ひかるは毅然として答えた。 「はい、でも記憶は全然戻ってなくて。大丈夫なのかな」 『先のことを心配しすぎないで。今、重要なのはあなたの意志だ』  そう言われたひかるは思案顔になり黙り込む。ゼノもディーも口出しをせず、彼女が次に話すのを待った。 「アルナリエ王国へ帰ります。ルシェール・エスティエリ・アルナリエ、それが私の名です」
/44ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加