さよならの向こうへ

4/7

11人が本棚に入れています
本棚に追加
/44ページ
 声は高らかに響いた。その直後、晴天がみるみる剥がれ落ち、もくもくと白煙があたりを包み込んだ。思わずひかるはディーに近づき彼の外套の袖口を軽く掴む。  しだいに辺りは深い霧に覆われた。突風が吹き抜けると同時に視界が開けてゆく。  気がつけば、二人は海をのぞむ持橋町の港にいた。真夜中の町にはほとんど明かりがない。 「やあ、姫。準備は整ったよ」  声のするほうを向くと、白衣を身にまとった銀髪の青年がいた。切り揃えた前髪の下に翠玉の瞳が煌めく。 「なんだか久しぶり」  魔術師の姿をしたゼノに、ひかるは微笑んだ。 「あなたなら絶対にこの結果を出せると思っていた。僕は最初からわかっていたよ」  さらっと言い切ったゼノに、ひかるは目を丸くする。しかし彼女の顔はすぐ真面目になった。 「ゼノ、苦労をかけました。あなたの魔法で私の姿をルシルに戻してほしいの」 「姫はもうご自分で元に戻れるはずです」  「え?」  ひかるは、ぽかんとする。けれども何かを悟ったように目をつむった。  しばらくすると、彼女の体から白く光る粒子が蛍のように舞い始める。その勢いは増し、完全に光に包み込まれて見えなくなった。  やがて光は細くなり、しんと静まり返った夜景の中に王女が現れた。  限りなく白に近い銀髪は一本一本輝き、腰まで伸びている。襟の詰まった白い上衣には紫色の刺繍があり、長いスカートはシフォンのように軽やかだった。足は高さのない靴を履いている。
/44ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加