さよならの向こうへ

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 ふとルシルが視線を上げるとディーが自分を凝視していた。だが、ぼんやりしたのも束の間、物静かな様子で片膝をつく。低頭し、面を上げなくなった。  ルシルはディーのもとに歩み寄る。目の前に腰を下ろすと彼は顔を上げた。  視線が交わると、ルシルは自然と口角を上げて言う。 「完璧にもとのルシルには戻れてない。やっぱり、『ひかる』が残ってるみたい」  微笑みながら、ルシルはすまなそうに眉をハの字にした。 「あなたは、あなたのままであればいいのです」  ディーは泰然と言い返した。 「思うままに、信じたままにやってください。どんなあなたであろうと、私はそばで見守ります」  するとルシルは両手を伸ばし、その白く細い手でディーの頬に触れた。 「ディー、私決めました。貴方が心から笑顔になれるようにすると誓います。貴方が私を守ると誓ったように」  そう言いながら、ルシルは目でディーに微笑みかけた。紫色に澄んだ瞳で黒目を覗き込む。  二人は見つめ合い、少し長い沈黙の後、ディーが静かに口火を切った。 「それは私の願いでした。陛下との確執で笑顔を失ってしまったあなたに、もう一度笑ってほしかったのです。けれど、私にはどうすることもできなかった。この世界で微笑んでいるあなたを見て思いました。王女の影として、自分には剣を抜くことしかできないのだと」  ディーの声音は一段と低かった。ルシルは闇のような眼差しをまっすぐに見据えて、彼の頬から手を離す。 「影じゃないわ。貴方は誇り高き戦士。そして私の守護官です」  一向に表情を変えない美青年を見つめるルシルの目は潤む。うっすらと一滴の涙が頬を伝った。隠そうとしてすかさず頭を下げる。  ややあって、黒い服の袖と掌が視界に入った。  ルシルが視線を上げると、ディーは彼女が流した涙の跡に親指でそっと触れる。彼が差し出したもう片方の手は動かず、相手がその手を取るのを待ち続けていた。  ディーの手を握り、ルシルはようやく立ち上がる。
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