新月の再会

5/6

11人が本棚に入れています
本棚に追加
/44ページ
 それは男性と思しき、黒い外套を纏う長身痩躯の人だった。ズボンの裾はブーツに綺麗に仕舞われており、やはり黒い靴だった。  片手には細長い剣を持っている。(つば)柄頭(つかがしら)に、植物の葉や蔓の銀装飾が施されていた。本当にその剣で、あの怪物を斬り裂いたのかと疑ってしまうほど細く鋭利だ。カシャと澄んだ音色を立て、彼は剣を呂色の鞘へ収める。腰に巻かれたベルトに鞘は括りつけられていた。 「いや、来ないで!」  震えながら声を出すと、向かってくる人はぴたりと足を止めた。  しかしすぐに歩き出し、目の前までやって来ると静かにしゃがんだ。片膝を立てて、黙ったまま右手を差し出す。  お互いの顔がはっきりと見え、ひかるは抵抗するのをやめた。彼は無表情だったが、素顔は十九そこらの若い青年である。肩につくくらいの黒髪を後ろでゆるく束ね、目鼻立ちの美しさに恐怖心を忘れて呆然としてしまう。  差し出された掌には迫力がなく、むしろ自分を何かから庇護しようとしているようだった。  はばかりながら青年の手を取る。それはとても時間がかかったが、彼はひかるのほうから手を取ってくるのをじっと待ち続けていた。催促する圧がなく、いつまででも待ち続けているのではないかと思うほど辛抱強い。  手を握り合うと、あれほど硬直していた足腰は魔法のようにスッと真上に動いた。まるで翼が生えたように体が軽い。  立ち上がり、彼を見上げると身長差に圧倒された。 「……ルシル、私はあの時、……ゼノとあなたのオトラを追ってきましたが、ティスハルトのヘルブライトに先を越されました」  青年は最初に言ったことを途中で撤回したように聞こえた。理由はわからなかったが、落ち着いた低い声は耳に心地よく、ひかるを安心させた。だが言っている内容に関しては、さっぱりわからない。
/44ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加