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失われた王女
『アルナリエ王国の繁栄と他国との恒久平和を願おう。白金縷の豊作を祈り、民に愛と銀貨を贈ろう。我らの父、グレン国王陛下に畏敬の念を込めて。めでたきルナノーヴァの祝福を——』
威勢のある声が祝宴の大広間に響き渡った。階段の最上部の王座へ向かって人々は恭しく頭を垂れる。
白い宮殿の天井は高く、絢爛豪華な白金の装飾が至る所に施されていた。王侯貴族達が一堂に会し、饗宴が今まさに執り行われようとしている。
王族の血筋を継ぐ者たちには、外見に総じて共通するところがあった。
えもいわれぬ美しい銀色の髪である。
そして宴の席でひときわ純白度の高い白金色の髪を持つ王族の娘がいた。頭部にはティアラが煌めき、紫眼は丸々と大きい。陶器のような滑らかな肌には侍女も触れることをためらうほどであった。王女が公の場に姿を現す時、ひしめく聴衆は次のように賛美した。
ルシェール姫は、国の光、王家の宝石、国民の娘——。
◇
「……あなた達は誰なんですか?」
ひかるは物怖じしながら質問する。
銀髪の若者は、なにやら胸に一物ありそうで、肘を抱えながら顎に手を当てた。ひかるの頭や顔をつぶさに観察している。
「確かに感じる。間違いない」
「間違いないって何が?」
「無事でよかった。別の世界に飛んでしまったとわかった時は、もう顔色を失ったよ」
嘆いているわりに、心なしか彼の口調からは余裕が感じられる。
「ちょっと、私の質問を無視しないでください!」
語気を強めると、彼はひかるの瞳を覗き込むように顔を近づけた。
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