失われた王女

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 口では否定したものの、シルクのような毛先に触れることができた。自分の骨格もいくぶん細いような気がする。 「嘘だ、こんなの絶対嘘!」 「では、後ろを見て。それか鏡を持ってない?」  ゼノは肩をすくめて諭した。慌てて振り向くと、屋上に出るドアの窓ガラスに自分が映っている。 「そんな!」   鏡は持っていなかったが、ひかるはスマホを手に取った。カメラを自撮りモードにする。画面に映る顔を見て取り乱した。 「魔法かなにか知らないけど、王女とか姫とか、そんなの知らない! だって私の名前は永原ひかる。お父さんと二人で暮らしてる普通の高校生。お願い、早く元に戻して!」  ひかるはその場にしゃがみ込んだ。膝を抱えて頭を体に埋める。「誰か助けて……」と呟く声は疲れ果てていた。   怯えるひかるを見て、ゼノはこの上なく困ったといった様子である。 「わかりました、こちらも少々強引に振る舞った。どうかお許しを」  それを言ったところで、ひかるの耳には全く届かない。ゼノが指を鳴らすと、空中の鏡が消えた。 「ルシル、怖がらないで」  温厚な声で宥め、ひかるの頭部にそっと手を置いた。すると長髪はみるみる縮み、つむじから黒く染まってゆく。  顔を上げて、安堵で腰が抜けたひかるは、そのまま地面に尻をついた。ゼノは彼女の頭を撫でると、片膝を立てたまま語り始める。 「なんといわれようとも、あなたはルシル王女。根拠はある」 「……どんな根拠?」 「感じるから、僕には」 「感じるなんて、あなたの主観じゃない!」
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