1/1
前へ
/3ページ
次へ

今日も父は縁側でお茶を飲みながら日向ぼっこしている。 姿勢良く背筋伸ばし、湯呑み片手に地蔵のように。 二つ名は「仏のシゲさん」 誰に対しても穏やかに、怒るという感情は捨ててしまったような人。 私自身も、父に怒られた記憶はない。 たとえ勉強しなかろうが、門限を破ろうが、家の前で男の子とキスしてるところを見られようが、父はいつもニコニコして、「若さの特権だな」と言ってくれた。 その影響かどうかは知らないが、私は世間一般の女子のような、父が嫌いという気持ちはなかった。 反抗期は主に母に対して。 過干渉な母がうっとうしくて、暴言を吐きまくった。 それをニコニコ仲裁するのも父の役割だった。 役割と言えば、父はいつでも課長である。 これまでに転職を5回しているが、いずれも課長止まりで仕事を変えた。 課長は重責なんだと言っていて、中間管理職が一番激務なのだと教えられてきた。 かなりストレスが溜まるらしい。 縁側でお茶を飲む背中を見ていると、そんな気配はまるで感じないのだが。 上司に謝ることはあっても、部下を叱る父はいるのだろうか。 「仏のシゲさん」は、部下のフォローも優しくしそうだ。 でも、私は父の裏の一面を知っている。 というか知ってしまった。 ああ見えて父は闇が深い。 巷では恐れられる存在なのだ。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!

13人が本棚に入れています
本棚に追加