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第3話 運命の出会い
「それで、マリアンヌ嬢は、どうして、こんなところに?休憩ならば、ラウンジのほうが、安全ですよ。ご案内しましょうか?」マリアンヌが、1人寂しく泣いていたので、こういう時は、男である自分が慰めるよりも、同性と愚痴を言い合った方が、スッキリするだろうと、クリストフは考えた。
泣いていた理由には触れず、気遣ってくれたことに、マリアンヌは感謝して言った。
「ありがとうございます——あまり、人に会いたくなかったのです。お恥ずかしながら、今日は、誰とも踊っていただけなくて、落ち込んでおりました」
大したことではないといった様子で、笑ってみせているマリアンヌの瞳が、揺れていることに、クリストフは心を痛めた。
「こんなに美しい女性を誘わないなんて、男たちは、どうかしているな」
マリアンヌがどんなに美しくても、泣いて酷い顔になっているはずだ。容姿を褒められたことは、お世辞なのだろうと分かっていた。けれど、今日、初めてまともに話をしてくれたことが、とても嬉しかった。マリアンヌは素直に喜んだ。
「ありがとうございます。大公殿下とお話ができて、今日は、すてきな思い出になりました。落ち込んでいたのが嘘のようです」
「では、思い出の締めくくりに、ラストダンスを、お誘いしてもいいですか?」
「まあ、喜んで」マリアンヌは頬を、ほんのりとピンク色に染めて答えた。
この日の舞踏会も惨敗だったけれど、最後に、すてきな思い出を作れたことは確かだ。マリアンヌは、ウキウキとした気分で翌朝目を覚ました。
「クロエから聞いたわよ。昨晩はエスコートされながら、会場から出てきたのでしょう?とってもお似合いで、とってもすてきだったって、クロエが大騒ぎしてたわ。もしかして、結婚も棒読みかしら?」ジャンヌはマリアンヌの朝の身支度を手伝いながら言った。
「そんな、気が早いわよ。それに、お相手は大公殿下よ。引く手数多に違いないわ。4歳も年上の私なんか、相手にされるわけないじゃない。誰からもダンスに誘われなかった私を、気の毒に思って下さっただけだわ」
「未来の旦那様は、お優しい人なのね。私、益々気に入っちゃった!」そう言ってジャンヌは、いたずらっぽく笑った。
「もう、ジャンヌったら、未来の旦那様だなんて、大公殿下に失礼よ」そう言いつつも、マリアンヌは頬を赤らめた。
「そんなことないわよ。今頃、大公殿下はマリアのことを考えて、食事も喉を通らないほど、恋焦がれているかもしれないわよ」
「もう、ありえない!」でも、本当にあんなすてきな男性から、好きだと言われたら、どんなにいいだろうかと、マリアンヌは考えずにはいられなかった。
頬を染めて、はにかんでいるマリアンヌを、ジャンヌは、くすくすと笑った。
そして、容姿や家柄なんて、なんでもいいから、マリアンヌを幸せにしてくれる人が、夫になってくれればいいと、切に願った。
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