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期末試験当日。
「フー!フー!フー!」
極限の勉強により試験の猛獣と化した私は、口から蒸気を吐きながら、本来なら何でもないテストへと挑んだ。
「では始めてください」
「フフフ!フフフ!フフフ!」
「ハルルカさんお静かに」
問題の数学、アイワル語、アイワル史を難なく解き進める私は、試験中だというのに笑いが止まらなかった。
「そいや宇宙化学はでぇーじょーぶだべ?」
「ハルルカは二級宇宙船整備士の資格を持っているので問題ないと思いますよ」
「ラクショウ…ヨユウ…ラクショウ…!」
「精神状態は大丈夫じゃなさそうだけど」
「なんか取り憑かれてるみたいだべ…」
「むむー!悪霊退散悪霊退散悪霊退散!」
「キカナイ…ラクショウ…サイキョウ…!」
無論、アイワル全土で用語が統一されている宇宙化学を落とすはずがない、二級宇宙船整備士というのは相当なものであり、簡単に言えば現場主任クラスの資格なのだから。
そして合計4科目の試験を終えた私達はカフェで寛いでいた、いつにも増して混んでいるその場所は至るところからため息が聞こえる、もうしばらくすれば歓喜と悲鳴の声で溢れることだろう。
「はあーやっと終わったべ。テストの空気っていつになっても慣れねえなぁ」
「そう?あたしはそういうの全然ないなぁ」
「それはヤムチーが大物…って」
「フシュー……」
「なんかルカハルがガビガビになってるべ」
「ガビガビ、とは?」
「死にかけって意味のスラングだよ」
「まあ、ハルルカは慢性的な睡眠不足でしょう」
「とりあえず結果発表までは持ちこたえるべ…」
この学園カデムは中枢にある超巨大サーバーが採点を行っており、その採点が終わって私達個人の量子シートに結果が届くまでだいたい30分ほどの時間を要する、もうすぐその30分が経過する頃だった。
テストの日は全員で結果を一喜一憂しながら帰宅するのが一種の文化であり、許容しがたいほど成績の悪い「ブリコ」は先生に呼ばれてしまう、夏休み前は「ガリバコ」を言い渡され、「バケノコ」となる夏を過ごすのである。
肉体的に疲弊しきったところで、この最も精神的に疲弊する瞬間は最大の山場と言えるだろう、来たるべき時が来ても放心状態の私は何も聞こえない、天国と地獄が混沌と渦巻くカフェ内で、頭の中の妖精さんとタップダンスを踊りながら微笑んでいたのだ。
「あたしは大丈夫だけどみんなは?」
「数学と語学がギリギリだったべ…」
「全て70点ぴったりですね」
「渦中のルカハルは?」
「…私が見てみましょうか」
「え?ロックかかってないの?」
アイジスは私の量子シートを奪い取ると、指先一つでパスワードロックを解除して結果を見た、彼女は「ふっ」と笑みを浮かべた直後にヤチムとメリルペンヌと目を合わせる。
「その顔は…」
「でぇーじょーぶだべか?」
「…問題の三教科は、全て回避です」
「あっ……」
しかしその含みのある言い方で全てを察した二人は何ともいえない表情をする、赤点を回避した生徒達の咆哮で騒然とするカフェの一角に静寂を生む、私が目覚めた時にどんな言葉をかけてやればいいのだろうか。
「…そっとしておこうか」
「んだ…」
とりあえず今は短い間にここまで仕上げた苦労を讃えて休ませるべきだろう、もうじきハルルカはこの星を離れて宇宙の旅を再開する、せめて別れの時くらいは笑顔でいてほしいものだから。
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