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4.ナンチーとわるいゆめ
薄暗い世界。
『ハルルカちゃん』
聞き馴染みのある声が聞こえる。
『大きくなったね』
男女問わず柔らかい大人の声が聞こえる。
『アジオスの宝だよ』
私が知っているアジオスのみんなだ。
『今日は何が食べたい?』
みんなは私に色々なものを与えてくれる。
『お勉強がんばったね』
いつも顔を見る度に褒めてくれる。
『生まれてきてくれてありがとう』
決まってそんなことを言う大人もいる。
『みんながお父さんとお母さんだからね』
私に本当の父親と母親はいない。
『だから泣かないでね』
急に寂しくなって泣いてしまった時もあった。
『みんなハルルカちゃんが大好きなんだよ』
それでも私は幸福に満ち足りていた。
『いつまでも一緒にいたいんだよ』
これ以上は何も求めたりなんてしなかった。
『…このままだとアジオスはいつか誰もいなくなっちゃうんだ』
私は大好きなみんなの力になりたいと思った。
『ハルルカちゃんは旅に出て…宇宙のみんなに私達のことを伝えてほしい』
一人で故郷を出て観光大使として働くことに何の疑問も抱かなかった。
『ハルルカちゃんが…私達の最後の希望なんだ』
それはつい最近までのことのはずだ。
『アジオスは100年も前に滅んだ星じゃからな』
そんなことは絶対にありえない。
『ハルルカっていう正体不明の生徒なんだよ!』
私は正体不明の七不思議なんかじゃない。
『何でも100年くらい前から在籍してて』
そのハルルカと私は絶対に別人だ。
『ちなみにずっと留年してるから101年生だべ』
私は100年も生きた覚えなんてない。
『アジオス?どこの星だ…』
絶対にアジオスは滅んでなんかいない。
『ポ?ポ?』
確かにあの時アジオスが私の目には映ったのだ。
『お空に青いお星さまがあるでしょ?』
それは私の目には青い星に映ったはずなのだ。
『あれは絶対に青い星なんだ』
決してそれが違う色なわけがない。
『アジオスは水資源が豊かな星で…』
決してそれが赤く見えるはずがない。
『あれ?アジオスってどんなところだっけ…』
私の生まれ故郷なのだから知らないはずがない。
『どうしてこんなにぼんやりしているの…?』
正確にはっきりと思い出せないのは昔のことだからだ。
『違う!昔のことなんかじゃない…』
そもそも私の記憶のほとんどは施設の中である。
『そうだ!たまにしか外に出てないんだ!』
そこで大切にされて育った私は実際に世界を旅行したわけではないのだ。
『…なんで外を知らないのに観光大使なんて?』
疑問を抱くたびに私はどんどん矛盾していく。
『私はなんで…宇宙に一人で…?』
そんなことは今まで気にしたことなんてなかったのに思考が悪い方向へと進んでいく。
『だめ…これはきっと…悪い夢…』
きっと全ては夢なのだ、そう思い込んだ瞬間に、世界の全てが真っ白に包まれたのである。
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