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それから私は心を入れ替えて子供達から絵を学んでいた。
どんなにくだらないことを言われても喉のあたりでこらえて、自らの成長のために別れの時まで努力することを選んでいた。
この星の人々は決まって絵が達者であり、画風の種類や上手い下手あれど、分かりやすさという点では一貫して高水準に達していた。
「プポ」
「ペカキ、プポ」
「プポ、プポ、プポ」
一方で私の絵は独創的すぎるというのもあり、何かを表現したい時に相性が悪いようだ、恐らく「プポ」は下手くその意味だろう。
「ピカキ、ココパ、ココポ、ポポ?」
「これは…伝説の…遠近法…」
「パカキ、ココパ、ココポ」
「描くから真似をしろと…」
「ピカキ、ピューポ、ペカキ、プポ、ピューポ」
「君ら絵のことになると急に辛辣じゃない?」
きっとこの星ではまともに絵が描けないと生きていけないのだ、だから純粋な子供達は一転して鬼コーチのような雰囲気になる、真面目に教えてくれていることの証明でもあった。
「ピューポ、ピューポ」
「何言ってるか分かりませんよーだ」
鬼指導の甲斐あって、私の絵は何が描かれているか分かるほどに上達していった、そして宇宙船から「翻訳が完了しました」と一通の連絡が入る、ようやくこちら側の言葉が伝わる時が来たのだ。
「えっと翻訳入れて…」
「お前の絵、下手くそ、遅い」
「オォイ!?」
「下手くそ遅い、遅い下手くそ、遅い遅い」
「翻訳停止!!」
とはいえ言語による会話はしばらく必要無い、そんなものはなくとも言いたいことは通じ合っていた、それが必要なのは最後に別れの言葉を伝える時くらいか。
「暗くなる頃には出ないとなぁ」
「ポ?」
まだこの惑星に降り立ってから一日も経っていないが、既にほんの少しだけ名残惜しさを感じている、宇宙に一人で旅に出ているのだから当然と言えば当然か。
「一回帰っちゃおうかなぁ」
「ピューパ、ピカキ、プポ」
人肌恋しいという感情はまさにこういうものなのだろう、そう感じた瞬間にホームシックはやってくる、そうならないように訓練した日々を思い出すしかなかった。
「…せめて三か星くらいは宣伝してから帰らないとみんな悲しむよね」
「ペポ?」
「ペポじゃないよパパーだよ」
私は一番近くにいた女の子の頭を撫でながら、センチメンタルな自分を抑えてポジティブな気持ちで悲しみをこらえた、たった数日前に離れた故郷の思い出は、今は大事にしまっておこう。
「初めてきたのがこの星でよかった」
そんな重たいものはこれからの長旅に持っていけない、私は一人では持て余すほどの大きくて広い宇宙船に乗っているが、きっと旅の途中で大事なものをたくさん見つけるのだから。
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