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夕方、謂わば太陽であるマザリアの光が水平線に落ち、空が茜色に焼けた頃。
その空を覆うほどの巨大な円盤型の宇宙船、私の活動拠点でもある母船で、先程も乗り込んだ多くの小型船を束ねる存在。
私はその下で、あまりの未知なる光景に呆然とする村民の前で、目に涙を浮かべながら、鼻をすすりながら手を振っていた。
「さよならー!」
「ポ?」
「また、また来るからねー!!」
「ポ?ポ?」
「あ、翻訳忘れてた」
たった半日しかいなかった私に、感極まって別れの挨拶をしに戻ってくる私に、彼らは普段とそう変わらない顔で首を傾げている。
「私!次の星に向かいます!」
「なんで?」
「ハルルカは!観光大使なので!」
「観光大使ってなに?」
「おばーちゃーん」
「あなたハルルカって言うのねぇ」
「そうだよ!」
「奇妙な名前ねぇ」
「もっと悲しんでよぉ!」
恐らく彼らは、私のことを奇妙な客が来たくらいにしか思っていなかったのだろう、宇宙船の発着場すらないド田舎の星だが、定期的に宇宙人がやってくるようだ。
「ねー、おっぱい」
「ハ!ル!ル!カ!」
「おっぱいはもう帰るの?」
「ハルルカはもう帰ります!」
「またねおっぱい」
「二度と来るかボケー!!」
顔を真っ赤にしながら子供達に罵声を浴びせる私は、「二度と来るか」と何回も叫びながら、何度も振り返りつつ去っていく、しかし良い感じのムードで別れたい私は、まだ諦めていない。
「私…次の星に…」
「じゃあねおっぱい」
「二度と来るか…二度と来るか…」
「ママ、夜ごはん何?」
「おい空気読めガキィ…」
「何がいい?」
「何でもいい」
「もう帰るー!さよならー!」
「おなかすいたー」
「じゃあ早めに作るわね」
「カモーン!アイジスー!」
だがその思いに反して、ネーガ住民達が飽き始めてしまうと、私は一人寂しく宇宙船に乗り込んで、逃げるように広大なる宇宙へ飛んでいってしまった、何だかんだ全員が最後まで見送ってくれていたことなんて知る由もなく。
「離脱よぉーし!」
大気圏を抜けて、ネーガの重力場から抜けた宇宙船は、デブリ避け及び事故防止のバリアを張りながら、光速をも超える瞬間移動の準備を開始した。
『ネットワークの申請をします。少々お待ちください』
このアイワル銀河はそれぞれの恒星まで道が指定されており、つまりこのマザリア系の外に出るためには、その道の使用許可を得なければならない。
「遅いよー!こんなとこさっさと出るよー!」
『申し訳ありませんハルルカ様。パスポートの期限が切れていたため、ただいま銀河管理局に問い合わせて再発行しております』
もちろんパスポート等の書類は必要であり、色々と抜けている私は更新を怠っていたようで、これからという時に足止めを食らってしまった。
「すみませんアイジス様わたしの不注意でした」
『いえいえお気になさらず。三時間ほどお待ちください』
「三時間後に発ぁ進ー!」
宇宙船に搭載されている女性AIのアイジスは極めて優秀な存在だが、それを使う人間がポンコツだとどうしようもないのである、とりあえず一回ネーガに帰るべきだろうか。
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