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アイワル銀河、ナイトル系。
そこは私たちのいたマザリア系の隣に位置する惑星系であり、比較的恒星の光が弱い宙域であり、人の住む惑星も一つしかない極寒の星々。
マザリアほどではないが田舎であり、低温環境を利用して様々な無人工場があるこの宙域は、当然ながら滅多に人が来る場所ではない。
私の乗る巨大宇宙船は、宇宙の高速道路を通ってこのナイトル系に現れると、その淡く青っぽい光が輝く幻想的な宙域を優雅に漂った。
『ハルルカ様、ナイトル系宙域に到着いたしましたよ』
「あえ?」
『外をご覧いただくと、綺麗な景色が楽しめるかと存じ上げます』
「ふわぁ……」
『本機は10分後に、唯一の有人星であるサスぺスへと向かいますね』
「ふぁーい」
しばらく景色を楽しむと、工業星に囲まれた唯一の有人惑星へと向かって舵を切る、とはいえ宇宙船の操縦をしているのはAIのアイジスだが。
そもそも私は運転免許を持っておらず、宇宙船の整備の資格すらも持っていない、この優秀なAIがいなければ何もできない人間なのである。
『次の星は相当寒いようですから、ご準備を』
「大丈夫大丈夫ー。このスーツは暑いところも寒いところもいけるからー」
そんなポンコツは簡単にはAIの言う事を聞かない、聞かないからこそポンコツなのだが、気高き私がそんなことを認めるわけもない。
『スーツの耐用温度を下回っていますが』
「スペックは控えめに書くのがアジオス流なの」
『これが最後の警告ですよハルルカ』
「優秀だからって人間を脅せると思うなよー」
『いってらっしゃい』
「さーて、どこに降りよっかなー」
アイジスもAIとしては最高位の自我を持っているくせに、私の意思決定を尊重しすぎる面があり、滅多に怒ったり強制することはない、着陸地点も私が自由に決めることができる、きっと能天気な私で遊んでいるのだろう。
「死ぬほど寒い!!」
『警告はしましたよ…』
「死ぬ!!助けて!!たちゅけて!!」
案の定、光の柱と共に雪が降り積もるサスペスの大地に降り立った私は、下半身が雪に埋もれてあまりの寒さに震えが止まらない、生存本能の赴くままに雪を掻き分けながら近くの民家に突撃した。
「開けて…開けてぇ…」
「………」
「あ、鍵かかってない…」
「………」
「入れろおらぁ!!」
しかしそれは当然この星の住民と軋轢を生じさせる行為であり、この時の私は迂闊だったと言わざるを得ない、変なプライドを捨てて素直に宇宙船に戻っていれば良かった。
「誰かいませんか…って…」
ドアのすぐ先にある雪払い用の空間、その更に先にあるリビングのドアを開けると、私はとんでもない光景を瞳に映してしまった、今まで見たことのない凄惨な光景だった。
「ひ、人が…倒れ…?」
テーブルの陰に見える、この家の家主と思われるおばさんの足はピクリとも動かず、恐る恐る近付いてみると、私は青ざめた表情になって叫ぼうとする口を両手で塞いだのだ。
「死んでる…!!」
新たな惑星での新たなる苦難、きっと私はこれの連続で生きていくのだろう、ハルルカの故郷再生の旅は始まったばかりである。
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