【セックスのこと】

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【セックスのこと】

男は始めからそれを知っていて、女は男に教わって初めてそれを知る。究極の快楽と、満足と、愛の表現。ときにはどこか即物的に感じるときもあるけれど、激しく求められているときに深いことなど考えられない。海はヒロによってセックスを覚えさせられ、当然ヒロの肉体しか知らない。涼も樫しか知らないし、里も菊も、みんな自分の主人しか知らない。 「あぁ……や、強い、んぅ、んっ…あっ、あっ……」 「ごめんな、あともうちょっと……」 ベッドが軋み、地震のようにガタガタ揺れる。この震度がそのままヒロの激しさをものがたり、海はその下で苦悶しつつも、抗ったりせずじっと耐えていた。 最近ようやく、彼のペニスを根元までしっかり受け入れられるようになった。身体の奥深くには何があるのだろう。自分の股の間は男のペニスを受け入れるために造られていて、何度もされながらどんどん深くなっていく。 突かれると何かが溢れそうになり心がじくじく濡れるのは、女にしかない器官が自分の男に反応しているせいなのかもしれない。 どうしてこんなことをするのかわからない。でも男は例外なく本能的にセックスを知っている。まるで食べることと寝ることをごく自然に為すかのように。 海はヒロに何度か抱かれて慣れるまで、自分のペニスからも白い液体が放出されるのを知らなかった。ヒロだけだと思っていたので、放った瞬間、深い快楽と共にジグザグと様々な感情が交錯した。 ペニスの無い人はどうなっているのかも、もともと性的な話が苦手なのもあり、里には聞けないので知らなかった。でも、櫻と里はどのようにしてセックスをするのだろうとある日ぽつりと漏らしたら、ヒロに指を突っ込まれ、中を2本の指で突かれたり掻き回されたりして、「こうするんだ。」と教えられた。差し込んで前後に動くだけのペニスより、自在に動く指の方が、体内の構造と合っていると感じた。ヒロの人差し指と中指は、ペニスに慣れた海の腹の中を快感で痺れさせた。だから海に初めて絶頂を与えたのは、ペニスではなく指であった。 でも海は、ヒロの硬く反り返ったたくましいペニスが大好きだった。ヒロにペニスが付いていて良かったと思っている。自分の中で暴れているときは苦しいが、肉体の中で優しく包み込むのも、手で握ったりさすったりするのも、くわえてしゃぶったりするのも好きだ。 セックスのときにだけこういう形になるのが不思議だ。まるでここにも意思があるかのよう。どういう仕組みなのかわからないが、ともかく海が裸になると、ヒロのペニスはじわじわと少しずつ硬く大きくなっていき、身体の真ん中を貫くときには最高潮に達している。うまくできているな、といつも感心する。 セックスはヒロによって教わったけれど、自分はそれよりずっと前から、ペニスの使い方を知っていたような気がする。どうすれば彼が喜ぶのかも知っていた。だからつまり、寝ることと食べることと同じように、本能として備わっていたものなのではないだろうか。 でもそれなら、なぜ羞恥を伴うのだろう? 友達と食事をしたり、枕を並べて昼寝をするように、ヒロ以外のオスともセックスができるだろうか?いや、彼以外の男の前では、裸にすらなれないだろう。それに主人以外の男の前で、女が勝手に裸を晒してはならないのだ。誰かがわざわざ言い出したことじゃなく、これはいつからか暗黙のうちに意識していたことである。 四つん這いになった海の手の上に、背後から突き上げるヒロの大きな手が重なる。ふたりの手の違いを見ると、これもまた、男と女を明確に分けるひとつの手がかりなのではないかと感じる。ヒロの節くれだってゴツゴツした手、太くて長い指と硬い指先、ガサついた手の甲。船を作る男の手だ。家事と薬草の世話をする海の小さな手とは大いに違う。身体の大きさと同じように、手にも男らしさと女らしさがある。 上体を起こし、腰をつかんで力強く突きまくる。海の腰は、ヒロの左右の手の指先が届いてしまいそうなほど細い。なんとなく、まだこんなことをさせるには海は若すぎるようにも感じる。 柏のところの菊くらいなら無理がない。華奢ではあるが菊は充分に大人で、肉体の成熟度ならセックスに適していそうだ。現に柏からこっそり聞いたところによると、菊はペニスでもてあそぶように突かれるのが好きで、激しく突いても痛がったりせず、むしろそれによって絶頂を得るそうだ。 肉体の具合とか好みの問題もあるだろうが、普段はあんなにおとなしそうな顔で赤ん坊の面倒を見ているくせに、夜はまさしく様変わりして快楽に耽っている。主人のモノとして完成された肉体を有しているということだ。 ……それを思えば、海はまだ若すぎるかもしれない。 だからあまり激しくすれば、壊れてしまうのではないかと時折心配になる。精神的には自分よりずっと大人びているが、肉体的には海がまだ子供とよばれる領域にあっても不思議ではない。あるいは、子供と大人の中間。子供時代から次の時代への過渡期。そういう微妙であいまいな位置付けだ。これは涼や里にも言えることだ。 そんなことを考えながら体勢を変えさせ、横向きで右足を持ち上げ、ペニスの角度を変えて突き上げる。若すぎたとしても、海が自分だけのメスであることに変わりはない。狭い肉の洞の中で、きつく締め付け、やさしく包み込んでくれる。汗ばむ身体を重ね合わせ、今度は向かい合って腰を振る。果てるときは、かわいい海の顔を見ていたい。顔を見ながら中に放ち、つながった場所から白く泡立った粘液がこぼれ落ちるのを眺めるのだ。 ……突いてる最中は目に映る痴態に酔い、自身も快楽にまみれていて、出してしまえば頭の中がスッキリするから深く考えたことはないのだが、この交わりには快楽を得ること以上のがあるような気がする。うまくは言えないが、究極の快楽と満足と愛情表現であること以外に、何かもっと違う結果を求めているような…… 海の胎内の奥深くに精子をこすりつけているときに、その妙な感情が顕著になる。このメスを、もっと違う何かに変貌させたいという奇妙な欲求。あの気持ちは自分だけが持つものだろうか。それとも…… ー「良い、あ、そこ……もっと……」 菊の尻を揉んだり叩いたりしつつ、指が肌に食い込むほど強く腰をつかみ上げ、柏は本能のまま腰を振った。 「ああまたイク、いく、だめぇ……イっちゃう……」 「俺もイキそ……」 「柏くん、一緒にイって……俺がイくときに、中にいっぱい出して……」 「ああ…お前は中に出されるの好きだな。」 「好きぃ……大好き…ああ、やだ、んっ…イっちゃう、イク、イクぅ……」 腕を折り曲げて枕に顔をうずめ、汗ばむ背を弓なりにする。尻だけを高く上げながら、菊の膣内は快感で極まり、ペニスをしぼるかのようにぎゅうぎゅうと締め付けた。その最中にひときわ強い突き上げを腹の奥で受け止めると、柏のペニスも蠕動しているのを感じ、望んだ通りに菊の見えないメスの部分に種をまきちらしているのがわかった。柏の精子でいっぱいになる膣内と連動するかのように、菊の胸は形容しがたいあたたかな気持ちで満たされ、もうとっくに自分のペニスの存在などは忘れている。 ペニスを引き抜くと仰向けにされ、同じく汗ばんだ柏に抱きしめられキスをし、また舌を絡め合った。精子のぬるつきを感じつつ、洗い流しにいく余力はない。今日も朝から1日子守をして、帰ってからは柏の子守もして、菊はもうぐったりと疲れていたし眠かった。 「赤ん坊はできそうか?」 柏が腕枕をしながら問う。 「……さあ。できないと思う。」 まどろみかけた菊のかすれた声。セックスが終わればあっさりといつもの物静かな妻に戻る。冗談で問いかけたが、少し残念そうに「そっか。」とだけ返して柏がしばらく菊の身体を撫でてやると、彼はおやすみも言わぬまますぐに寝息を立てた。 派生は知らぬが、いつからか誰かが言い出した"子作りのおまじない"。 赤ん坊がほしいと念じながらセックスをして、必ず妻の中にその念を封じ込めるように夫の精子を残すと、どういうわけか妻の身体からまっさらの赤ん坊が生み出される、という子供だましの内容だ。どのように子供が生まれるのかと言えば、どうやら仕組みは鳥と同じで、腹の中から子供の入った小さな卵を排出するらしい。馬鹿げているが、確かになぜ鳥は同じ鳥を自分の身体で生成できるのか、不思議である。 柏はそれを菊に話し、セックスをしたあとはよく冗談で子供ができそうかどうか尋ねている。けれど冗談なのに答えはいつもそっけない。柏は子供が欲しいと思ったことはないが、そのまじないによって菊の分身のような子供ができるのなら、欲しいと思った。なんなら鳥の幼生の、あのピイピイと鳴く小さな黄色い綿毛のような小鳥でもいい。もしも本当に卵が生まれたら、そのトリは食べずに大事にこの家で育てるのだ。 ……我ながら、馬鹿げたことを考えている。 明日も早いから寝なくては。柏は枕元の明かりを消し、菊の身体を抱いて目を閉じた。
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