王子様の登場

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王子様の登場

第三話 「そんなことはありません。王子は白雪姫を見て、仮死状態だと判断したと聞いています」 犬顔の弁護士の耳は、目にかかりそうなほど垂れ下がっている。 「寝ている状態と仮死状態で何が違うのですか?どうして白雪姫が寝ているのではなくて、仮死状態だと思ったのですか?」 「それは┅┅」 「実は白雪姫の意見を無視したお見合いだったのではありませんか?」 白い手袋をした指先が、優雅な手付きでヒゲの根元から先までを滑らせた。 「お見合い?」 「まず魔女の毒リンゴ、そして仮死状態、次に王子が訪れて白雪姫を観察して気に入ればお見合いを断れないように、キスで純潔を奪ってしまったのです」 「うわ、最低」 「この時代にありえねえだろ」 「白雪姫が可哀想」 白雪姫と猫顔の弁護士は、裁判員から同情の声を集めるのに成功した。 「ちょっと待った」 法廷の後ろの扉を開けて、映画スターのように男が入ってくる。 「あなたは、まさか隣国の王子」 裁判長の右隣に座る女性裁判官の1人が声をあげる。 「いかにも、私が隣国の王子です」 片手で髪を撫で上げる仕草を見せながら、傍聴席を超えて、証言台まで進み出てきた。 「王子、勝手な行動は困りますぞ」 裁判長が王子の行動をたしなめるが、聞いてない。 「当事者である私の意見を聞きたいかと思ってね。マイハニー」 王子は白雪姫に向かって投げキッスを飛ばしている。 「やだ、ストーカー男が現れた、キモッ」 水色のオーガンジーが、猫顔の弁護士の後ろにすっぽり隠れて見えなくなる。 「大丈夫ですよ。あなたに手を出させやしません」 猫顔の弁護士が力強く断言する。 「隣国の王子って猫族なの?」 傍聴席からそんな声が聞こえてきた。 王子の見た目は太り気味でへちゃむくれの猫顔で、マニア受けはしそうである。 「なんかヤダ、今までハンサムな猫顔の弁護士さん見てたから、受け付けない」 「ん?猫顔の弁護士?」 傍聴席の声を聞き取って、王子は弁護士席に目を向ける。 「お前は、第二王子じゃないか、ここで何をしている」 不細工な猫王子が隣国の第一王子で、ハンサムな猫顔の弁護士が第二王子? 「お久しぶりです、兄上。僕は白雪姫の弁護士なので、身内話しは終わってからにしてください」 穏やかに話してはいるが、仲が良さそうには見えない。 「ふん、あいかわらず生意気な奴め。私の席は反対側だね」 王子が犬顔の弁護士の隣に当たり前のように腰かける。 「おお、白雪姫。こうして向き合って座っていると、顔合わせの席みたいではないか」 「あんた、何言ってるのよ。勝手なことばっか言ってんじゃないわよ。この醜男」 白雪姫がキレて暴言を吐く。 トントントン 「いい加減にしなさい。これ以上続けるなら退廷を命じますよ」 裁判長の堪忍袋の緒が切れる。 「突然、被告人が現れたので、被害者は驚いてしまったようです。ご理解ください」 「分かりました。今後は、気を付けるように」 裁判長は、被害者の気持ちをくんでくれたようだ。 「はい」 「そうだよ、気を付けたまえ」 片手で髪を撫で上げるポーズを決めて、王子が何かほざいている。 「進めてください」 猫顔の弁護士の冷たい声が法廷に響き渡る。 「あ~王子側の証言でしたね。他にも何かありますか?」 「私が自分の弁護をして、白雪姫に気持ちを伝えようじゃないか」 「王子、それでは弁護が出来ません」 犬顔の弁護士は、マイクを取り上げようとする王子を牽制している。 「白雪姫、私は君を愛してしまったんだ。だからこそ目を覚まさない君を救いたくて、我がベーゼを送ったのだ」 白雪姫は口の前に手を当てて、「オエッ」と吐く真似をしている。 「ちょっと待った」 「白雪姫側の弁護士、その合図はなんだね」 「すみません。間違えました。よろしいてしょうか?」 猫顔の弁護士さんは、あわてて合図を間違えた。 「どうぞ」 「皆様、王子の言い分をお聞きになりましたか?」 「お前も王子だろ」 被告人である第一王子が野次を飛ばす。 「コホン、白雪姫を愛しているから、ベーゼを送ったと述べています。これはストーカーが憲兵に捕まり、まず第一にする言い訳なのです」 猫顔の弁護士の片耳がピコンと動いている。 「そうです。この男は┅┅」 白雪姫が我慢出来ずに言葉を発する。 「発言は許可をとってからに願います」 「はい、発言よろしいですか?」 「被害者は発言してください」 「ありがとうございます。この男は、ストーカーでセクハラ不細工男です。こんな猫と結婚するくらいなら死ぬ方がマシです」 「何を言うんだ、白雪姫。私たちは運命の2人だと思わないか」 「┅┅」 裁判長も第一王子には何を言っても仕方ないと思っているのか、言葉が出てこない。 「運命┅┅よろしいでしょうか?」 「被害者は発言してください」 「はい。運命ですって?ふざけんじゃないわよ。自分の顔を鏡で見てから出直しなさいよ。あんたを選ぶくらいならドワーフと結婚するわ」 「私の潰れた顔は猫の世界では、最も高貴と言われているのだぞ」 「なっ、よろしいでしょうか?」 白雪姫は言葉を飲み込んで、発言の許可をとる。 「被害者は発言してください」 「はい。あなたの高貴な顔は猫の世界では高貴なのでしょう。でも私は人間なんです」 「そりゃあ、人間がいいよな」 「あんなに綺麗なんですもの。そりゃあ、そうよ」 裁判員席から同情の声がかかる。 「それに私たちの結婚は、国と国の結び付きを高める外交だ。ワガママは許されぬ」 初めて第一王子が、まともなことを言っている。 「よろしいでしょうか?」 「被害者どうぞ」 裁判長も言葉が少なくなってきた。 「国と国の結び付きなら、別に私とあなたじゃなくてもいいのではなくて?」
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