ど真ん中

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第四話 「白雪姫、君には姉妹がいないじゃないですか?」 へちゃむくれの太った猫顔が、してやったりとムカつく顔をした。 「よろしいでしょうか?」 「どうぞ」 「王子のご兄弟は何人ですか?」 「113人だ」 「┅┅」 あまりの数に白雪姫の小さな口が絶句している。 「もう自由に話し合ってください」 裁判長から許可がおりる。 「では、ご兄弟の中から私に選ばせていただけたら、国同士の政略結婚も無事に成立しますわよね」 「猫族を嫌がるあなたが、私たちの中から選ぶと言うなら認めましょう。ですが、兄弟の中で一番の美男子は私なので、あなたが最終的に選ぶのは」 「この人、いいえ、この猫族さんが、私の好みのど真ん中です」 細く白い腕が、隣の猫顔の弁護士の腕に自分の腕を絡めている。 「白雪姫?」 猫顔の弁護士は、まさか猫族嫌いだと思っていた白雪姫に選ばれるとは思っていなかった。 「素敵よね~」 「彼ならいいな」 ん?野太い声┅┅。 裁判員席では女性だけではなくて、男性からも猫顔の弁護士のファンとなった人たちが騒ぎ出す。 「あとは猫顔の弁護士が、白雪姫を受け入れるかどうかにかかっていますね」 裁判長が事件の終わりを探り始める。 「ちょっと待ってくれ。第一王子の私のどこが、こいつに劣ると言うんだ」 まるで舞台上の芝居のように、両手を広げて訴える。 「最初は顔だけ嫌だったけど、今はあんたの全てが嫌っ。弁護士さんも最初は顔だけ好みだったけど、今はこの猫族さんの全てが好き」 ショートカットの小さな顔が、ほんのり紅く染まっている。 「もしも第二王子の僕に、白雪姫の手をとることが許されるなら、どんな困難も2人で乗り越えましょう」 猫顔の弁護士は、机の上にシルクハットを置いて、その場に片膝をついて白雪姫に手を差し出す。 「きゃー」 裁判員席から黄色い悲鳴があがる。中には野太い悲鳴も混ざっているぞ。 「末永くよろしくお願いします」 白雪姫が、ハンサムな猫顔の弁護士の手をとる。 「許さん、こんな裁判は無効だ」 「ブーブー」 白雪姫と猫顔の弁護士のロマンスを楽しんでいた傍聴席から、邪魔猫は消えろと野次がとぶ。 「もういい、帰る」 「来る時は自由でも、帰る時は自由にとは行きませんよ。あなたは被告人なんですから」 裁判長から、厳しい言葉が投げかけられる。 「だったら早く終わらせてくれ」 へちゃむくれの顔が、もっと不細工に歪んでいる。 「双方の弁護士は、最後に言いたいことはありますか?」 「あとは結果を受け止めたいと思います」 猫顔の弁護士が、隣の愛しい人と顔を見合せながら答える。 「私も同じ気持ちです」 犬顔の弁護士は、ほとほと疲れきっている。 「それでは判決を言いわたします。注文、被告人は有罪。次に判決理由は、醜男でありながら美しい白雪姫が無抵抗の状態でセクハラをおこなった為である」 「ちょっと待った~」 「被告人は、これから言い渡す処罰を聞いてから、異例ですが意見を述べる機会を差し上げます」 「ふんふんふん」 王子のふてくされた態度に、陪審員席から「ブーブー」ブーイングが起きている。 「ストーカー行為、セクハラ行為で有罪となった王子は、今後、被害者である白雪姫に接近することを禁止する」 「ちっ、もうどうでもいい。それより先程から聞いていると、ベーゼではなくて、醜男が原因のように聞こえるのだが┅┅ まさかと思うが、こいつが、弟がベーゼの相手だったら訴えられなかったのか?」 「┅┅」 白雪姫があらぬ方を見てめて、王子の問いにすっとぼけている。 陪審員たちも、王子の問いが聞こえていないように顔を背ける。 「おい、どうなんだ?」 「裁判長、王国より王子が有罪になった場合にお渡しするように言付かってまいりました」 猫の手が、王国からの手紙を裁判官席に差し出した。 もちろん、第一王子の邪魔を絶好のタイミングでしてやった。 「今、見てよろしいですか?」 裁判長が手紙を手に取り、猫顔の弁護士にたずねる。 「はい、判決と同じように口に出して読み上げていただくように仰せつかりました」 左右の裁判官と相づちをうちながら、シワだらけの手が封を切る。 【親愛なる裁判官殿 この手紙を見ていると言うことは、我が息子が有罪となったのであろう。 有罪になったと言うことは、隣国の姫君に迷惑をかけ嫌われた、つまり外交にも支障が出る危険があると言うこと。 皇太子が有罪になった場合には、この手紙をもって皇太子の地位を剥奪。南の国境を守る地に赴き領主となることを命じる。       国王】 「な、な、な、なんだ、それは?」 皇太子を剥奪された王子は、急なめまいを起こして、しゃがみこんでしまう。 「王子様、しっかりしてください」 太った猫顔は、犬顔の弁護士に抱えられて、それでもどうにか自分の足で法廷を出ていった。 「あの猫、いや王子、何しに来たんだ」 「白雪姫に振られに?」 「マジか」 「はああぁ」 陪審員席からも傍聴席からも、王子のドタバタ劇にあきれて、大きなため息が聞こえてきた。 「何か想定外の物凄いことが起きてしまいましたが┅┅それでは、閉廷とします。ご起立ください。第二王子、そして白雪姫、どうぞお幸せに」 「わあ、お似合いよ」 「幸せになってね」 法廷にいた皆が、まるで昔からの知り合いのように、心から2人を祝ってくれているのが伝わってくる。 「ありがとうございます」 2人は手をしっかりつないで、皆に頭を下げた。 ◇◆◇  白雪姫のその後が気になるって? 白雪姫に毒リンゴを食べさせた継母は、城の敷地内に作られた塔に今も幽閉されているわ。 隣国の王様は、第二王子を世継ぎにしようとしたけど、兄の地位を奪ってまで皇太子にはなれないと固辞しているの。 第二王子と婚約したことで、城を追い出された白雪姫は堂々と王宮に戻り、王国の唯一の後継者として国民にお披露目された。 そして今日、猫顔の第二王子と王位継承権を持つ白雪姫が結婚式をあげて、この日を国民の祝日とした。
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