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白雪姫が王子を訴えた
第一話
「尊敬する裁判官の皆様、愛すべき裁判員の皆様、本日、弁護士を任されましたリチャードと申します。以後お見知り置きを」
燕尾服を来た猫顔の弁護士は、シルクハットを手に取り、丁寧にお辞儀をする。
背が高く、ハンサムと言う言葉がピッタリな猫顔である。
綺麗な二等辺三角形の耳とピンと伸びたヒゲも、彼にとても似合っている。
「昔から議題に上がっていた『白雪姫』から裁判を行いたいと思います。今回新世代の白雪姫から、王子に対しての民事訴状が届きました」
白髪頭で、厳格そうな裁判長が口を開く。ちなみにヒト族である。
刑事裁判では検事が罪を述べていきますが、今回は民事裁判で検事は同席していません。
代わりに、被害者の弁護士が訴状を述べていきます。
「まずは、皆様にもお馴染みの白雪姫を今回の事案に基づいて見ていきましょう。ちなみに、王子が出てくるところまで、早送りいただいても構いません」
法廷に動画が流されていく。
動画◆◆◆動画
緑深い森の中に、七人の小人と白雪姫が暮らす木造の家が建っていました。
家の掃除をしていると窓を叩く音がして、白雪姫は振り返ります。
「何かご用ですか?」
「これは綺麗なお嬢さんだ。私は果物を売って生活している者です。これは初めてお会いした記念にプレゼントしますよ」
黒い頭巾を被った女性が、美味しそうなリンゴを手渡します。
「まあ、美味しそうなリンゴ」
白雪姫はその場で一口リンゴを頬張ります。
「あっ」
リンゴを一口頬張ると華奢な手が口を押さえて、突然倒れてしまいました。
「アハハハハハ、バカな子だよ。疑いもせず毒リンゴを食べちまうんだから」
黒い頭巾を被った女性は、高笑いをしながら緑深い森の奥へ消えていきました。
「ただいま」
そこへ仕事から帰った七人の小人がやってきます。
「大変だ、白雪姫が倒れてる」
七人の小人たちは白雪姫をベッドに運んで看病しましたが、目を覚ましません。
七人の小人は目覚めない白雪姫を熱心に看病して、昼間は外で昼寝をさせて、夜は家のベッドで休ませます。
小人たちが白雪姫を外に運んで昼寝をさせながら、近くで仕事をしていました。
そこへロバに乗った隣国の王子が、通りかかります。
「森の中に美しいご令嬢がいて、眠りから覚めないと聞いて来たのだが」
王子は、ロバから降りて七人の小人に話しかけました。
「あんた、誰?白雪姫と関係ないなら出ていってくれ」
「そうだ、そうだ」
「おお、彼女が白雪姫か。なんと美しいのだ。いざ、我がベーゼを」
王子は七人の小人の話しを無視して、眠り続ける白雪姫に、そっとキスをします。
「ん」
白雪姫は王子がキスをした途端、目を覚ましました。
「おお、美しい白雪姫。我がベーゼにより目を覚ましたのだな」
バチン
「きゃー、いやあ~、何でこんな醜男が王子なのよ。死ね変態!不細工、私のファーストキス返してよ」
白雪姫は無意識に手を出して、王子の頬を叩きました。
「白雪姫、私は隣国の王子です。あなたが眠りから覚めないと聞いて、助けにやってきたんです」
「余計なお世話よ、クズ男。寝てる相手にキスするなんて、この変態、死ね死ね死ね」
細い手が、マグカップや水差しを手当たりしだいに投げつけます。
七人の小人たちによって、いつ目覚めてもいいように用意されていた飲み物の入ったカップ等です。
「うわ、止めてくれ~」
怒りが収まらず果物まで投げ出した白雪姫。
王子は頭を抱えて逃げまくり、馬の背にお腹を乗せ二つ折りのような格好で逃げていきました。
動画◆◆◆動画
「映像を見ていただいたのでお分かりでしょう。訴訟内容はずばり、セクハラです。裁判員の方々もご存じの通り、白雪姫が憎き、おっと今のは削除してください」
猫顔の弁護士は、ウインクをして自分の失敗をアピールしている。
「弁護士は言動に注意するように」
裁判長から注意されたが、猫顔の弁護士は気にした様子もない。
「白雪姫が継母である魔女から、毒リンゴを手渡され、そそのかされて一口かじってしまった。これに相違ございませんか?」
「はい、その通りです」
新世代の白雪姫は、お約束の通り艶々の黒い髪を、現代風にショートカットにしている。
上が水色のオーガンジーで、下はふんわり広がる黄色いフレアスカート。
「嘆かわしいことです」
「異議あり。魔女の行為は、被疑者とは何の関係もありません」
異議を認められる前に、素早く王子側の弁護士が割り込む。こちらは犬顔である。
「本当にそう言いきれますか?」
「双方に、つながりがあると考えているのですね?」
裁判長が、猫顔の弁護士を鋭く見つめている。
「はい、この後、あきらかにします」
「では、続けてください」
裁判長は、白雪姫側の進行を続けるようにうながす。
犬顔の弁護士は、悔しそうに席に座る。
「はい。魔女からの毒リンゴを食べなければ、白雪姫は仮死状態にはならなかったのは、紛れもない事実です。
ですが、おかしいとは、思いませんか?世界で一番美しくありたいと思っていた継母である王妃は」
「異議あり」
「異議を認めます」
「失礼しました。継母である┅┅魔女は、何故、白雪姫を殺さなかったのでしょうか?理由は簡単です。最初から仮死状態にすることが目的だったのです」
「異議あり」
王子側の弁護士だ。
「弁護士は、目的を明確にしてください」
「はい。仮死状態にすることで、王子が白雪姫の前に現れて、拒否されることもなく、いいや拒否することも出来ずに無理矢理キスをすることが出来たんです」
「異議あり」
「ここからが、被害者側の申告です」
猫顔の弁護士は、猫の手をギュッと握って力説する。
「異議を却下します」
「ありがとうございます。被害者は次世代の白雪姫として、仮死状態にされて、王子と初対面でキスを交わさねばなりませんでした」
「いくら白雪姫の運命でも可哀想」
裁判員の中からそんな声が聞こえてきて、猫の手が、こっそりガッツポーズをした。
「しかし、目を覚ました白雪姫が見たのはおぞましくも醜い醜男の王子だったのです」
猫顔の弁護士が被告人の非道を裁判員に力説した。
「異議あり。見た目は関係ないでしょう」
「┅┅」
裁判長は、判断に困っている。どうも、その点が白雪姫の訴状の要点なのか。
「見た目は関係ないとおっしゃいましたが、あなたが酔っぱらって意識がない間に、美しい女性から今日は楽しかったとキスマークをつけられていたことを、朝になって気がついたら、どう思いますか?」
「どうって、そりゃあ、泥酔したことを悔やんで、どうにかして、もう一度会えるように┅┅」
犬顔の弁護士は、猫の弁護士に乗せられるまましゃべってしまう。
「ブーブー」
傍聴席の豚さんたちから避難の声があがる。
「皆さん、落ち着いてください。ゴホン。何の話でしたっけ?」
犬顔の弁護士は何事もなかったように、話しを続けるつもりらしい。
「もしもあなたが泥酔して、不細工な女にキスマークをつけられたら」
「冗談じゃない、はっ┅┅」
犬顔の弁護士は、また口を滑らせてしまった。
「ブーブー」
「ゴホン」
「そう、冗談じゃないんです。見知らぬ相手であるからこそ、醜男に寝ている間にキスをされて目覚めるなど、その時の白雪姫の絶望を想像してみてください」
「うっ、それは辛い」
何故か、王子側の弁護士は、白雪姫に同情の視線を向けている。
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