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世間一般的に考えると僕の渾身の創作活動は単なる悪辣な拷問ショーと一蹴されてしまうのだろう。
多くの観客達もそう認識している者が大半を占めているのが現状であると僕自身も認識している。
しかし、幸いなことに一部の人々は僕の創作に他に相入れない芸術性を見出してくれている。
彼もこの世界に現存する僕の数少ない、この異端な芸術の理解者の一人である事は疑いようのない事実だった。
そんな彼の嗜好を満たした満足感を感じつつ、僕自身も今回の過程の感想をできるだけ手短に伝えた。
「ありがとうございます。あの瞬間は製作者の私自身も興奮を隠せませんでした。あの虚ろだった眼が一転し、微かに零れた生命の最後の輝きは、この世に存在する数多のダイヤの大きさの質量にも勝る輝きになっていたことを願うばかりです……」
そう言い放つが早いが口を噤んだ僕は、今回も自らの手で今宵の興行を興奮の嵐に飲み込み、一仕事をやり遂げた達成感から来る至極の悦に浸った。
迸るようなアドレナリンの分泌がピークを越え、忘却の彼方で渦巻きいでていた蓄積された重度の疲労が顔を覗かせ、柔軟性を完全に失った指先が小刻みに震え始めるたのを感じた。
そんないつも通りの僕を一瞥した彼はさも満足そうに小さく二度頷くと、巨大なモニター越しに作品に目をやった。
数にしている六百九十八本の五寸釘を表皮という表皮に根元まで打ち込まれ、真新しかった柏の椅子、所謂木製の土台と一体した完成品は微動だにせず、嘗て人であった現実を忘れて極限なる感情の解放の喜びの余韻に浸っていた。
彼はまたも満足気に声帯を震わせる。
「完璧です。文句のつけようが無い。
この男は薄汚れた惨めな人生の締めくくりに、先生の手によって最初で最後の美を放つことが出来たのですから……まったく羨ましい限りです。
また次の土台が入り次第追ってご連絡いたします。
次回も先生の傑作を我々一同ご期待しております。」
その後、僕は専用の洗浄室で身体の隅々を洗浄した後、多額の現金の入った封筒を手渡され、再び面白味も何の変哲も無い虚無の世界へ解放された。
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