壱.玖拾捌

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黒々としたスモーク張りの送迎車に揺られて帰路に付く途中、再び今回の作品(アート)を作り上げた悦びに思いを馳せた。 だが、これら一連の興行(ショー)の達成感は、金のためなら何でもする主催者(オーナー)達や、世界中の顔も見えない数多の荒んだモニター越しの客人達(オーディエンス)の歓喜や称賛から来るものは微小なものであった。 それらは僕の内なる芸術性の解放の副産物の一部に過ぎないのだ。 決して満たされる事の無い無限の創造性。 猥雑に入り組んだ喜怒哀楽を形あるものとして表す自分自身の形容。 毎回払われる多大な報酬も所詮おまけ程度のものであり、全ては自分が自分である為に、自ら進んで肉玩作品(アート)を作り続けている。 表の社会から隔絶されたこの舞台こそが僕が僕として生きれる唯一無二の場所であり、ふと気づいた時にはあの黒塗りの密室での刹那の創作活動(アートワーク)だけが、僕がのただ一つの生きる意義になっていた。 そんな僕の芸術性が形となり目に見えるようになった時、そう、初めて一端の芸術家(アーティスト)の芽が芽生え始めたのは、十歳になってすぐのありふれた梅雨明けが明けて間も無い初夏の午後の日だった。
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