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弐.零壱
都心から離れた小さな片田舎で育った僕は元々内向的で口数も少なく、小学校では虐めに遭い、気づいた時には自宅の中でひっそりと生きることを余儀なくされていた。
それを見かねた両親は、失敗作を作り出した原因は私のせいではないと言い張り、日々お互いを罵り合いながら僕のことをまるでいないもの様に扱った。
小さくも孤独と無力感に打ちひしがれ、絶望の淵に塞ぎ込んでいた僕を気にかけてくれたのはたった一人の兄弟である兄だけであった。
そんな兄といる時間だけが、僕が唯一の僕が僕でいてもいいと感じさせてくれる時間だった。
だがそれ以外の間、即ち兄が学校に行っている日中は耐え難い苦痛の時間だった。
ある曇天の昼過ぎ、ふとした時に僕は軒先に来た猫を、庭木のの枝吊り用として置いてあった麻紐で締め殺してしまっていた。
学校から返ってきた兄はその状況を飲み込むと大粒の涙を流して嘆き悲しんだが、僕の為にその猫を海に捨てに行ってくれた。
それからというもの、生き物を手にかけたあの日の興奮と兄の悲しむ姿の背徳感が忘れられず、僕は僕の形を保つため、目に入った人間以外の生けと生けしものを殺して回った。
そんな歪み始めた僕を真っ当な社会から守ろうと兄は後処理に尽力してくれていた。
僕が断ち切ったかつて生き物だったものを、黒いポリ袋に入れて海に捨てる兄は遠い目をしながら口癖のように繰り返し言っていた。
「お前は悪く無いよ。この社会が悪いんだ。」
それは僕に言っているというよりは、まるで自分自身に言い聞かせるかのようだった。
そんな愛する兄の悲しむ姿を横目に、幾度も僕の中には罪悪感と背徳感が入交る中に言い表しがたい悦の感情が渦巻き続けていた。
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