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肆.陌
翌週もまた、アトリエでの仕事が舞い込んだ。
最近の以来のペースは明らかに早く、僕はまだジャンヌの加工の疲労が完全に癒えてはいなかった。
そんな繁忙期でも変わらず僕は仕事を心から待ち望んでいた為、颯爽とアトリエに足を運んだ。
だが、その日の仕事はいつもとは異なる点が一つだけあった。
土台の履歴書には写真は黒く塗りつぶされ、ほぼ全てに経歴には太い黒線が引かれており、僕に与えられた情報は一行のみだけった。
『極左テロリズム団体、「ディガンマ」ナンバー2。』
戸惑いを隠せない僕は上映スタジオでセッティングをしているオーナーのところへ行き問いただした。
「オーナーさん。こんなことは今までにありませんでした。これは一体どういう事を意味しているのでしょうか。」
彼は機材の準備をする手を止めると、ばつの悪そうに俯くと僕の目は見ず唯一言だけ言い放った。
「嗚呼、先生。どうかお赦しください。
私から言えるのはこれだけなのです。」
しかし、いかにも申し訳なさそうな声色とは裏腹に、彼の眼には何時にも増して形容しがたい嗜虐的な光が宿っているのが見て取れた。
その怪しい輝きは僕が初仕事を始める時ぶりに見た、期待と興奮を凝縮したかの様に邪悪なものであった。
高ぶる心拍を抑えようと必死になればなるほど粘り気のある不安の影は渦を巻く。
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