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「俺はなにをしたらいい?」
水上くんが日鞠に指示を仰ぎに来たのだけれど、声を聞くだけでドキッと心臓が跳ね上がった。
「水上くんには廊下で呼び込みをやってもらおうかな。あ、やっぱりダメ。そのまま女子に連れ去られそうだから中で仕事して」
「なんだそれ。門脇はときどき変な妄想をするよな」
「やだ、褒めないで」
「褒めてねぇよ」
ふたりのこういうやり取りを隣で聞いているだけでほっこりする。
自然に冗談を言い合ったりしているし、ふたりは本当に仲が良くてお似合いだから、もし付き合うことになったらみんなから祝福されるだろう。
それに比べて私は……
そこまで考えたところで小さくかぶりを振った。今日だけはネガティブ思考を封印すると決めてきたから。
「カレー、うまそうだな」
気づけば水上くんがすぐ隣にいて、カレー鍋の前に陣取っていた私に話しかけてきた。
「水上くんはカレーが好きなの?」
「嫌いなヤツはいないだろ」
鍋の中を覗き込みながらフフッと笑う彼の顔を見て、私はやっぱりこの人が大好きだと再確認した。
今日は私にとって、一世一代の勝負の日。
絶対に尻込みしたりしないぞと、もう一度気合いを入れ直す。
「あのね、水上くんに……聞きたいことがあるの。店番が終わったら時間もらえないかな?」
ちょうど周りに誰もいなかったから、言うなら今しかないと思って勇気を振り絞った。
もうこれで怖気づいたとしてもあとには引けない。前に進むしかないんだ。
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