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「どうした? 声、震えてないか?」
「私は大丈夫だから、その……話を……」
「わかった。あとで話そう」
お昼に近づくにつれ、我がクラスのカレー店は盛況を博した。
バタバタと忙しい時間帯もあったけれど、本当に飲食店でバイトをしているみたいで楽しかったし、良い経験になったと思う。
「透桜子と水上くん、交代の時間だからもう上がっていいよ」
日鞠が私たちの背中を押して教室の外に出るよう促す。
いよいよこのときがやってきたのだ。
目が合うと、日鞠は両手で握りこぶしを作り、がんばれとエールを送ってくれた。
それを見ただけで泣きそうになったけれど、私も同じようにジェスチャーを返す。
廊下に出ると人でごった返していて、お祭りムード全開だった。
「静かなところじゃないと話ができないよな」
辺りを見回しながら言う水上くんに同意の意味を込めてコクリとうなずいた。
どうやら彼は、私がふたりきりで話したがっていると察してくれたらしい。
「こっち」
そう言うが早いか水上くんはおもむろに私の左手を取り、人の間を縫うように進んでいく。
途中でほかのクラスの女子から強く突き刺さるような視線を受けたけれど、この状況を目撃したなら無理もない。
学年一モテる水上くんが、地味で取り柄のない私の手を引いて歩いているのだから。
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