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「いつまで経っても成長しない俺たちを見るに見かねたんだろう。アイツらしいな」
日鞠は私の思いを昇華させるために一芝居打ってくれたのだ。
こうして切羽詰まらなければ、私は卒業するまでウジウジとしているだけだと彼女はわかっていたのだと思う。
「ふたつ目。俺が好きなのは門脇じゃない」
「……へ?」
「なんでそんな誤解を?」
どうしてなのかと聞かれても、返答に困って言葉がすぐに出てこない。
私は日鞠にどんなに否定されてもそう思い込んできたのだ。
「だって……水上くんは日鞠には気さくに話しかけてたでしょ? 中学のころからずっと……」
「門脇は木南と仲がよかったからな。陽気なキャラの門脇に話しかければ、隣にいる木南とも自然と喋れるんじゃないかと小賢しいことを考えてた」
ポカンとする私にチラリと視線を送った水上くんは、バツが悪そうにクシャリと前髪をかきあげる。
そんな姿まで綺麗で、見惚れそうになった。
「ずっと好きだったのは、俺もなんだ」
「え?」
「俺が好きなのは門脇じゃなくて、木南だ」
一瞬、自分の耳がどうかしてしまって幻聴が聞こえたのかと思った。
だけど射貫くようにじっと見つめてくる水上くんの顔が真剣そのものだから、これは現実なのだと次第に理解し始める。
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