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「水上くん、ありがとう。奇跡が起きたみたいで、まだ信じられない」
左胸を押さえながらつぶやくと、彼は私の頭をゆっくりと撫でた。
「卒業式の日に『卒業おめでとう』って言い合えるんだね。話せるのは今日で最後だと思ってたから『大学でもがんばって』とか、それらしい言葉で締めくくるつもりでいたの」
長年思い続けた気持ちを伝え、フラれたあとにそう言って立ち去ろうと考えていたのだ。
それがこんな結果になるなんて、まったく予想していなかった。だから私の中では奇跡だ。
「木南の第一志望は慶菖大だろ? 俺もそこを受験する。受かったら同じ大学に通えるな」
「本当? 私、受験勉強がんばる!」
「スパートをかけなきゃな。……俺にパワーをわけてくれないか?」
そっと腕を引かれて一歩前に進むと、水上くんとの距離がぐっと近くなった。
彼の逞しい胸板が目の前に広がっていて、たちまち身体に緊張が戻ってくる。顔はまた真っ赤だろう。
「こっち見て」
低くて穏やかな彼の声音が私の心を震わせる。
顔を上げると、大きな右手で頬を包まれ、触れるだけのやさしいキスが落ちてきた。
――まるで、桜の花びらがふわりと舞い降りてきたみたい。
「文化祭、俺と一緒に回ろう」
よく見ると水上くんの顔も心なしか赤い気がする。
彼が私の手を引いて教室の扉を開けた。
誰かと恋人繋ぎをして歩くのは、人生で初めてだ。
高校の卒業式は来年の春。
その前に、私と彼は片思いから卒業した――
今日はそんな私たちの記念日だ。
―― end.
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