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「手伝えなくて悪いな」
「ううん。しょうがないよ。気にしないで」
詳細な内容まではわからないが、ふたりは最後にそんな言葉を交わしていた。
軽く右手を上げて立ち去る水上くんに対し、日鞠が明るい口調で「お疲れ~」と声をかける。
「ちょっと透桜子! なんかいい感じだったんじゃない?」
日鞠がニヤニヤしながら近寄ってきて、人差し指で私の腕をちょんちょんと突っつく。
彼女には中学のころから私の片思いのことは伝えてある。
おこがましくてほかの誰にも言えないこの気持ちも、親友の日鞠にだけは言えた。
「私、普通に話せてたよね? 変じゃなかった?」
真面目な顔をして確認をすると、彼女は半分あきれたように笑ってうなずいた。
「まだ緊張するの?」
「するよ。水上くんは特別。ところで、なにか日鞠に謝ってたみたいだけどどうしたの?」
再びマスキングテープを手に取りながら、なにげなく尋ねたのだけれど。
日鞠は私から視線を外し、右手をこめかみに当てながらしばし考え込んだ。
「実は……これを聞いたら透桜子はショックを受けると思うんだよね」
「なに?」
「実行委員の私には先に話してくれただけだから、みんなにはまだ内緒なんだけどさ……」
周りには誰もいなくて私たちふたりきりなのに、日鞠は注意深くキョロキョロと辺りを見回したあと、声のトーンを最小限に落とした。
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