1人が本棚に入れています
本棚に追加
目覚めると、病院のベッドでした。
看護師さんが目覚めた私を見て、心配そうに言いました。
「気分はどうですか? 外傷はほぼなかったんですけど。気を失ってしまったんですよ」
「そうですか。ご迷惑をかけました。停電は、終わったんですか?」
「ええ。停電はだいぶ前に終わったんです。ところで、警察の方が、聞きたいことがあるそうですよ」
「聞きたいことですか?」
「ええ。あなたが車にぶつかる寸前で、あなたを弾き飛ばした男性がいたことを、複数の方に目撃されていたんです。でもその男性が、現場に見あたらないそうなんです。貴方の知り合いではないかと警察の方が思われているらしく。車の運転手は、絶対に男性がいたと言っているんです」
私の心臓が一気に脈打ち、鼓動の音が高まりました。
「地震と停電が作り出した、幻じゃなかったんだ」と叫びました。
看護師が目を見開きました。
「幻って。どう言う事です?」
私は看護師の問いに答えること無く「幻じゃない! 幻なんかじゃない! いたんだ。いたんだ」と叫びました。
そして枕元にあった、私の携帯を開きました。
――でもやはり既読はついていませんでした。
携帯を呆然と眺める私に、私から答えを聞くことを諦めたのか、看護師さんが言いました。
「先生を呼んできます」
トォ、トォ、トォ、トォ――。
と看護師の足音が耳に入って来ましたが、私を看護師を見ることもしませんでした。
私は携帯に向かって指を走らせました。
”戸部くんは、本当にいたんだね”
”今までありがとう”
送信。
それから私は少し考えて、また書き込みました。
”私は戸部くんに、おとぎの世界から弾き飛ばされたみたい”
送信。
そして私は携帯電話を抱きしめました。
――私の時間は、流れ出したようです。
--fin--
最初のコメントを投稿しよう!