死に戻った悪女

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死に戻った悪女

 ――明日の正午、ルーリエ・カールストンは時計塔の大広場で公開処刑される。  本来あるはずの取り調べや裁判をひとっ飛びし、死罪が宣告されたのは今朝のこと。  ヨハニス第一王子と婚約していた伯爵令嬢の処罰としては、あまりにも非道で屈辱的な死に方である。貴族の断罪はひっそりと行われるものであり、毒薬を用いるのが通例だ。  監獄から逃げられるはずもないのに、右足首には重りつきの鎖。庶民と同じ粗末な古着に着替えさせられ、満足な食事も与えられず、すっかり髪の艶も失われている。  頭からつま先まで、くすんだ色に包まれて貴族令嬢の面影はすでにない。  ここ数日は家族との面会も許されず、絶望だけが募る日々だった。今夜だって、鉄格子を嵌められた窓から見上げる空は、黒に染められていて星ひとつ見えない。  なぜ自分がこんなみじめな姿になっているのか、答えは簡単だ。重罪を犯した者の末路として、民衆に見せしめるためだ。  なぜなら、ルーリエは稀代の悪女として裁かれるのだから。
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