黄色い傘と青い記憶

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いつもの帰り道。 この前まではひとりじゃなかった、なのに、今は僕の傘だけ。 黄色い傘が青い傘にぶつかると、くっつきすぎたなと、ニッと笑う口元だけが頭に残っている。  髪も、眉も、目もわからない。ただ、嬉しそうに笑う口元だけを覚えている。 同祖神が見守る分かれ道、ここでいつもバイバイと言った。でも誰に? 雨粒の音を聞きながら、黄色い傘の下で考えた。 ぽつ、ぽつ、ぽつ。さっきより、音が小さくなった。もうすぐ雨があがりそう。 背中の方からエンジンの音がして、僕は同祖神の後ろへ隠れた。 大きなタイヤが水たまりに映る空を歪ませると、飛沫が服にかかってしまった。 あーあ、またお母さんに怒られるなと濡れた体を見下ろした。 すると、目に入った自分の姿に首を傾げて、でも思い出せなくて、ただ、足に巻かれた包帯と、腕に貼ってある三枚の絆創膏を眺めていた。 そこも濡れてしまったから、家に帰って貼り直してもらおう。 でも、いつ、怪我をしたんだろう。痛くなかったからわからなかった。 ぽつ……ぽつ……ぽ——。 あ、雨が止んだ。 傘を閉じようと、骨組みに手をかけた時、頭に巻かれてある包帯に手が触れた。 気付いた途端、なんだか痛くなった。触ってみると指に血がついた。 ここも巻き直してもらおう。脳みそが入っている頭は大切だから。 黄色のお気に入りの傘。お母さんが、天気が悪くても目立つ色よって言ったから、この傘を選んで買ってもらった。 だから僕は教えてあげたんだ、青い傘だと雨に隠れてしまうよと。君も黄色い傘にすればいいのにと。 あの子は笑って、空の色だから青がいいんだと言った。雨だけど、晴れてるみたいでしょ……と。 いつもの帰り道。 車が通ると人の方が避けないとぶつかりそうな細い道。 さあ、もう車は行ってしまった。道をいっぱい使って歩こう。 黄色い傘と青い傘がぶつかってもいいくらい。なのに、青い傘はいない。 まあ、いいか。また明日会えるから。 雨で濡れた、キラキラした道はスキップしたくなる。 傘を閉じて走って帰るのもいいな。早く家に帰ってお母さんにホットケーキを焼いてもらおう。お母さんの作るものは、なんだって美味しいから。 楽しいことを考えているのに、骨組みが折れててうまく傘が閉じない。 壊れてしまった傘に、僕は悲しくなった。 せっかく雨が上がったのにな。 でも、いいや。お気に入りの傘だから、このままさして帰ろう。 黄色は目立つから、みんな僕だってわかってくれるはず。
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