gradation

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「別に、僕は黒が落ち着くから」  僕は黒が好き。コーディネートに悩まなくてもいい。全身好きな色に包まれて、僕は安心できる。 「流行りに乗る気はないし、僕は僕でいいんだ」  みんなが好きだと言うから、自分も好きだと言う。みんなが持っているから、自分も同じ物を持ちたいと思う。僕はそんな意見には流されない。僕は自分が好きなものが好きだ。 「みんなと同じ流行りの服を着て、みんなが好きな音楽を聴いて……みんながやるから自分もやる。そんなの何がいいんだか」 「はぁ?」  不釣り合いな僕たちを見向きもせず、その女の子たちはコンコースへ消えた。 「みんなと同じじゃないと不安なのかな。なんの面白みもない人間になって、人を気にして、同調して生きて。個性を潰してみんな同じで、つまらないよ」  そういう人たちは真っ黒な僕を見て、流行りに乗れていないことを心の奥底であざ笑うのだろうか。コピーしたように人の真似ばかりしている奴らが、異質な僕を受け入れることはきっとない。 「あのさぁ」  大きなため息をついて、渋い顔をした柿本が僕の前に立つ。動くと香るこのにおいが、やっぱり苦手だ。
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