gradation

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「さっきの話聞いてないでしょ。富樫のいう『みんな同じ』が『緑』だとして、その中でも黄緑だったり深緑だったり、ちょっとずつでも色は違うでしょ。それが『個性』ってことじゃん」  まっすぐに僕を見つめる視線を、そのまま見続けることができなかった。 「富樫は人をちゃんと見ていない」  強さともいえる彼女の眼差しが、僕の口を封じた。圧倒的な持論に、言い返すすべがなかった。 「みんな違うところがあるのに、全部同じに見てるのは富樫だよ!」  言い切られてしまった。鮮やかな緑色が視界で主張している。僕にはカラフルすぎて、受け止めきれない。緑の良さは分からないんだ。  その眩しさに目がくらむ。僕にはないものをたくさん持っている。柿本はまぶしいくらいに明るくて、誰とでも話せて、いつも人に囲まれている。   「あ、来たかな」  接近メロディが聞こえてきた。電車がゆっくりとホームに入ってくる。コンコースをのぞきにいく柿本の足取りは軽い。僕はこの話が終わったことに、少しホッとした。言い返せなかったんだ。みんな同じだと決めつけて、そんな人生つまらないと心の中で笑っていた。僕はみんなとは違うと、自分から壁を作って周りを見えなくした。それを見透かされたようで、なんだか居心地が悪かった。
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