1. 大聖女、隣国で男装の道に目覚める

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1. 大聖女、隣国で男装の道に目覚める

 領地でのんびり暮らしていたフェリシアのもとに、王家の紋章入り箱馬車がやってきたのは今から五年前のこと。  きっかけは、毎朝の日課となっていた森の散策だった。その日は侍女を一人お供にして木苺摘みに出かけ、歌を口ずさみながら歩いていた。子鹿に気を取られていたフェリシアは気づかなかったが、森の中には瘴気に冒された草が点々とあった。  名もない花はしおれて黒ずみ、周囲に黒い気を発生させていた。  次の瞬間、帰宅を促そうとした侍女は目を丸くした。  フェリシアの歌声が響くと、瘴気でしおれていた花が息を吹き返し、黒いもやも綺麗さっぱり晴れていたからだ。よどんだ空気は雲散霧消し、清浄な空気が広がっていた。  侍女は帰宅後すぐに領主に事の次第を報告した。  教会から牧師を呼び寄せ、他の森での実証を積み重ねた結果、領主は娘の能力を「聖女」のものであると認めた。  ツェート子爵家の聖女の噂は領地中に留まらず、王都にまで広がっていた。噂が噂を呼び、いつしか「大聖女の再来」とまで言われるようになった。その噂を聞きつけた王家の使者が婚約の打診にやってきたのだ。
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