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かくして、フェリシア・ツェートは大聖女として、ルミール・ロア・ヴァルジェ王太子の婚約者の座に収まったのである。
ルミール王太子は王都に不慣れなフェリシアにも優しく接し、二人の関係は特に問題もなく順調だった。王妃主催のお茶会の帰り道で、大理石の柱の陰でこそこそと話している婚約者の姿を見つけるまでは。
「俺は運命の恋に落ちた。婚約破棄するためには、あいつを偽聖女として罰するよりほかない」
耳を疑う話に、心臓が跳ねた。
聞いてはいけないと冷静な自分が叱咤するが、足がすくんで動けない。
(これは本当にルミール様の声……?)
話し方も話の内容も、まるで別人だ。物語の王子のように慈愛に満ちた口調とは似ても似つかない。
世の中には、表の顔と裏の顔を使い分ける人もいる。知ってはいたが、まさか婚約者の素顔がこんなだったとは露ほども思っていなかった。
結局、自分は浮かれていたのだ。田舎の領地にいた小娘が王太子から求婚されるという、夢のような話を信じて、うわべだけの付き合いしかしてこなかった。そのツケが今、回り回ってやってきたのだ。
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