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 ポプラ並木を後にすると、昼食には少し早かったが、札幌駅近くの百貨店Hで食事をすることにした。  駅が近いとあって、観光客も多く訪れるせいか、フードコートには北海道内のいろいろな名物が揃っていて、選ぶのが楽しかった。  康司はジンギスカン、陽子は小樽名物の海鮮丼を食べた。 「康司、今夜もジンギスカンだよ?」 「知ってる。でも肉は別腹って言うじゃん?」 「それ言うなら、甘い物でしょ?」  ヘタな突っ込み合いすら楽しい。旅の魔力だ。  食事の後、1階のイベントスペースで、多くの短冊が下がっている笹を見つけた。  二人はしばらく、思い思いに短冊を見ていた。 『病気が一日も早く治りますように』 『世界から戦争がなくなりますように』 『○○大学に合格しますように』  いろんな願いが寄せられている。 「私も書いていいかな?」  隣の陽子が訊く。 「いいんじゃない?」 「じゃあ……」  陽子が、横のテーブルに備えられている短冊から、薄いピンク色のを1枚取ると、ペンでササッと書き、笹に括りつけた。 『康司さんと、いつかここに住みたいです』  そう書かれていた。 「おっ、じゃあ、俺も」  と、康司は 『陽子と北大に通えますように』  空色の短冊にそうしたため、括りつけた。 「えーっ?北大受けるの?」 「いや。もう受験勉強はしたくないね」 「でも……」  不思議そうに短冊を見つめる陽子に、 「将来、お互いに定年退職したら、聴講生とか、公開講座とか、そういう形でもいいなって」 「えぇ……」  と、陽子はちょっと恥ずかしそうに康司から目を逸らして、 「夢、だね」  小さな声で言って、ちらりと康司を見た。
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