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 昼食を済ませた康司は、カフェでひと休みして時間を合わせ、3時少し前に、ポプラ並木を訪れた。  歩く人々の邪魔にならないように、1本の木の傍に立つ。 (陽子に会える。でも……)  やっと再会できる期待よりも、改めて別れ話をされる、そんな不安が強くなる。  3時を少し回ったあたり。  人たちの中に、康司に近づいて来る二人の若い女性の姿が見えた。  二人とも麦藁帽子を被り、一人は車椅子に座っている。 「あの、吉村康司さん、でしょうか?」  車椅子を押していた女性が、窺うような目で、康司にそう声をかけてきた。 (似ている!)  その声も、帽子の下の顔も、長い黒髪も、陽子にとても似ていた。  茶色の長い髪の車いすの女性は、俯いたままで、顔が見えない。 「はい。そうです……陽子、なの?」  康司も窺うように訊き返すと、女性は目を伏せながら首を振った。そして、 「陽子は……」  と、車椅子の女性に目を向けると、 「ほら、陽子。康司さんだよ」  そう声をかけ、そっと肩に手を当てる。と、車椅子の女性は、ゆっくりと顔を上げた。  意外にも女性は、サングラスをしていた。そのせいで、表情がよくわからなかったが、右の頬に、かすかにだが、傷跡のようなものが見えた。 「……陽子なのか?」  康司の問いかけに、女性は、 「うん」  と、か細い声を発した。 「歩きながら話しましょう」  続けて、車椅子を押してきた女性が言う。  並んで歩きながら、彼女は 「私たち、双子の姉妹なんです。陽子は妹……」  そう言って話し始めたのは、5年前の出来事だった。
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