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 康司との北海道旅行の帰り、陽子は途中の盛岡で新幹線を降り、家族と合流した。  母の実家が、岩手県の山里にあるのだが、早めの夏休みを取って、一家で帰省していたのだ。  そこで事故が起きた。 「みんなで山菜採りに行った時に……」  と、姉が車椅子を押しながら、遠い眼差しになる。  恒例となっていた山菜採り。そこに突然、熊が現れたのだという。 「近くに停めてあった車に逃げ込もうとしたんだけど、陽子だけが間に合わなくて……」  車内に入るギリギリの所で、後ろから顔と腰を一撃されたのだと言った。  その後、何とか車で街まで逃げ、そのまま救急病院に駆け込んだ。 「命に別条はない、と言われて、ホッとしたのも束の間で、その後が地獄でした」  と言う姉の目に、傾きかけた夕陽が差し込む。瞳が切なげに光る。  座ったままの陽子は、二人の会話をじっと聞いている。 「命に別条はない、ってニュースで聞くと、良かったねー、って、たいてい人は言うけど……」  姉はそこで足を止め、康司に目を向けて、 「あれって、単に命の心配がない、っていうだけのことで……」 「……?」  康司が、先の話を待っていると、姉が陽子を見ながら二の腕をポンポンと叩き、小さく頷く。  陽子も頷き返すと、ゆっくりサングラスを外した。 (あっ……)  その時、康司は全てを悟った。  右目の周りにできた、深い傷跡。  どこか不自然に見える、鼻の形。  そして、右目……。  それ以上の説明は、必要なかった。
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