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梟はその翼を広げる(4)
郁恵と文恵はすくすくと育った。
高校を卒業した郁恵は、隣町にある写真館へ勤め始めた。
最初はそこの助手として雇われた郁恵だったが、ここで資質が開花する。
郁恵には写真を撮る、という行為に天賦の才能があった。
郁恵の写真は群を抜いており、写真館に来た人々は「あの…店のウィンドウガラスに飾られてる写真を撮った人と同じ人に私も写してほしい」と口々に言ってきた。
好きなことを好きにやってみたい娘へ少しも理解を示さない父親だったため、つまらない学生時代を過ごした郁恵は欣喜雀躍し、写真館での勤務に励んだ。
勤務しているところは自分を必要としてくれる環境であり、自分を求めてくれる人々がたくさんいたのだから。
二年ほどは実家から汽車に乗って、写真館へ通っていた郁恵であったが、あるとき、写真館の近くにある古びた借家で一人暮らしを開始する。
どうしてか?
その理由は、郁恵が父である栄一と大喧嘩したためである。
家族内においては、「姉ちゃんはすごいー!!」と郁恵の実力を彼女の妹・文恵は高く評価しており、郁恵の母である光恵も「あなたはよくやっているわ、思う存分やりなさいな、お姉ちゃんがいきいきとしてるのを見ると、わたしも嬉しいの」と、娘を褒め称えた。
……が、しかし、郁恵の父・栄一だけは自身の娘を褒めないし、軽く見ていた。
「お前なんか大したことないんだ、いい気になるなよ、世の中にはもっとすごいやつがいるんだぞ」っと、いったところだろう。
そのような日々が続き、ある日の夜食の後のこと……。
始まった父親の夜の説教に初めは静かにうなずいていた郁恵だったが、ついに堪忍袋の緒が切れて、栄一へと口答えする。
娘の言葉がこちんときた栄一はちゃぶ台をひっくり返し、その場で郁恵を平手打ちした。
ここに後にいわれる「ビンタ事件」が起こったのだった。
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