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梟はその翼を広げる(11)
文恵は郁恵に案内されて、古びた借家へ行った。
建物に入ってみると、中には冷蔵庫どころか、家具もなかった。
床へ乱雑に置いてある姉の衣類の横に布団だけがある。
「…………布団の他は……何も無いんだ……」と、文恵。
「そーそー。何もないってのは、悩むことがないってこと〜」と、郁恵。
「…………たしかに。……姉ちゃん、出ていった日のこと、詳しく教えてよ。あたし……ビンタ事件のこと、よくわかんないままなんだって……」
妹が言ったので、姉は返した。
「よーし。……わたしもあのときとは違って冷静だから、説明するわ」
時計がない借家内で時が流れる。
文恵「…………うーーん。姉ちゃんの……言葉に……父ちゃん、カチンときたってこと? ……でも、なんで?」
郁恵「……父さんね、写真うつすの好きだったの」
文恵「……えっ?」
「……家に厚いアルバムが何冊もあったでしょ。あれの中の写真は全部、父さんが撮ったやつなんだよ。……ほら……これ……この写真も、父さんが写したの」
郁恵は床に放り投げられていたバッグから、手帳を取り出し、それに挟んであった写真を文恵へと手渡した。
文恵が受け取った写真には若い女性が写っており、その女性は赤子を抱き、女性の横には3歳から4歳ぐらいの女の子が立っている。
笑っている二人は親子のように見える。
二人の背後には何両もの汽車が並んでいた。
文恵「……こ、これは……母ちゃん?? ……なら、母ちゃんが抱いてるのは……」
郁恵「ふみちゃんだよ。で……母さんの隣りにいる可愛い子がわたし〜。このときから、わたしは可愛いんだよ〜」
文恵「……かわいい……!!」
郁恵「写したのは父さん。……構図が上手だよね〜」
文恵「…………」
郁恵「わたしがあのとき言い放った……父さんは写真うつすのが好きだったけど、それができなくなったから、ちやほやされて、いい気になってるわたしを気に入らないんでしょ!? ……に、むかっときたんだろ〜ね、父さんは」
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