梟はその翼を広げる(12)

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梟はその翼を広げる(12)

 姉と妹の話は続く。 文恵「……どうして、父ちゃんは写真を写さなくなったの?」 郁恵「持ってたカメラが無くなったから。……その写真を撮ってすぐに……父さん、別の工場へ移ることになって……で、わたしたちも一緒に引っ越すことになった。引っ越してからは物入りになって……父さん、大事にしてたカメラを手放して、生活に必要な物を揃えた。……母さんにいろいろ聞いて、わたしたちのために。……父さんはそういう人なんだよ。自分が好きだったことができなくなっても、家族を支えようとするの」 文恵「…………し、知らなかった……」 郁恵「……だろーね。……言うなって、父さん、母さんに口止めしてたんだって。……郁恵や文恵にはカメラが無くなったこと、言うなよって。……母さんがこっそり、わたしへ教えてくれた。……まぁ、別の工場に勤めるようになってからは……父さんにしかできないことばっかりで……とにかく忙しくなって……父さん、休みの日は寝てるだけになっちゃってさ……仮にカメラがあったとしても、写真撮ったりなんかはできなかったでしょうね……って、母さんは言ってたけど」 文恵「…………」 郁恵「それだもの……(しゃく)(さわ)るのもわかる。わたしを見ててさ。……あと、父さんが子供の頃に受けてきた教育の影響もあるでしょーね。軍人だった父さんは、軍隊教育を受けてきたわけじゃない? ……上官の命令は絶対だ、目上の者には無条件で従え、生意気な年下のやつは叩き潰せって……。父さんや母さんの世代はみんな、そう育てられたんだから。……そういうところは、同情できる。……父さんはわたしらが気に食わない、だから意地悪したいと……それだけ考えて、やってるんじゃないんだよ」 文恵「…………うん……だね……子供の頃にそうやって……育てられちゃったから……」 郁恵「うん。鉄は熱いうちに打て、なんだよ。……ふみちゃんは……母さんに言われて、わたしのところに来たの? ふみちゃんが自分の意志で来たの? ……まさか、父さんに命令されて?」 「ん……母ちゃんだよ。……姉ちゃんと母ちゃんの間の連絡係をやってほしいって、あたし、言われて……」  文恵は母・光恵に言われたことをそのまま郁恵へ述べた。 「れんらく、がかり?? ……ぷっ、ふふ、うふ……あはは、ははははは、はははっ……正直だね〜〜ふみちゃん……ふふふふ……母さんも、母さんらしい……うふ、あっはっはっはっはっは……」  郁恵は笑った。 「えー?? しょーじきって、何がさ?? ……ふ、ふふふふふッ、あはっはっはっはっはっはっ……そりゃ〜〜正直だって〜〜姉ちゃんに嘘ついても、あたし、なんにもならないってぇ〜、あっはっはっはっ〜〜」  文恵もつられて笑った。
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