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梟はその翼を広げる(13)
「そーか、そーか……ふふふふふ、ふふふ、いーこと言った。……よし……んーじゃ……正直なふみちゃんに、合い鍵、渡しておくわ。……それ使って、ここへ出入りして。わたしは……写真館とこのボロ借家の間を行ったり来たりする生活だからさ。……ふみちゃんが……母さんや父さんに何か言われて、嫌になったら、ここに来るといいよ。……母さんには、わたしがこの借家にいるって、伝えていいから。母さんが父さんに教えても、それはそれでいいし。……ほら、鍵〜〜」
郁恵から合い鍵を受け取った文恵はうなずいた。
「……ん、うん。靴屋さ、駅の近くにあるから……頻繁には来れないかな。こっちは山の方だし。……これ、ありがと……」
若い母と赤ん坊の自分、少女の姉の三人が写された写真を文恵は郁恵へ返そうとした。
「……あげるよ。それ、わたしの宝物だったんだけど……ふみちゃんの方が大事にできるでしょ? わたしなんか、手帳に挟んだままにしてた。……んでさ、ふみちゃんが家に戻ったら、さっそく頼みがあるんだ〜」
郁恵は文恵へ笑いかけた。
「へ?」と、文恵。
「わたしの部屋から、いろいろ〜〜ここへ運んできてほしいのっ」と、郁恵。
文恵「……あ、ああ……それは、ま、別にいいけどぉ……」
郁恵「あ、そう? よかった〜〜。来れるときでいいからさ〜〜。わたしが家に行って、母さんや父さんに会って、これがいるから持ってくわ〜……では、さよーならってのも、なんかねぇ〜」
文恵「……わかる。気まずい。……なら、自由に動けるあたしが……連絡係? ……配達係? ……をやるね」
郁恵「お願いっ……ふみちゃんがいて良かったわ〜〜〜あははははは……」
文恵「よかった〜?? ……あはっははははは……」
このように……姉は裏表の無い妹へ全幅の信頼を寄せており、妹には姉の才知を真っ直ぐに受け入れられる器量があった。
文恵は郁恵に頼まれた物を実家から借家へ何度かに分けて運んだ。
当時、文恵は駅の近所にある靴屋へ勤め始めたばかりであった。
妹の働きで、姉の住処である借家の内部は充実する。
そして、実家へと届いた郁恵宛の封筒を文恵は姉へ手渡した。
つまり、郁恵が同窓会へ行った後のことである。
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