梟はその翼を広げる(15)

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梟はその翼を広げる(15)

「……よっちゃん、よっちゃん……起きて、起きて……」  郁恵に揺り起こされた半裸の良雄はむにゃむにゃ言いながら、目を覚ました。 「……う、んん……どしたの……なになに……?」 「……ふみちゃんが来てくれたよ」と、郁恵。 「……えっ……あ、あぁ……ふみちゃん……。……久しぶり……だなぁ……おはよう……」と、良雄。 「……うん。お、おはよぅ……良雄ちゃん……」と、文恵。  起きた良雄と機嫌がよい郁恵と話し、文恵はおおよその事情を知った。  文恵が話してみると、良雄は彼女が知る彼と何も変わってはおらず、姉と愛し合う相手が良雄だということに文恵は妙な安心感をおぼえた。 文恵「…………なるほど、なるほど。……だいたい、わかった。……姉ちゃん、良雄ちゃんのことは……母ちゃんに話してもいい? すぐには話さない方がいいのかな……?」 郁恵「いーいー。話してもいいって。いーよね、よっちゃん?」 良雄「あ、いいよ。ふみちゃんに任せる……上手くやってくれよ」 文恵「……うん。……良雄ちゃんはここから、現場まで通ってるの?」 良雄「んーだ、んーだ。ここからブーンって行く方が近いんだよ。今度、ふみちゃんも乗っけて、どっかに連れてったるで」 文恵「あはははは……ドライブか……いいね〜〜」 郁恵「ね〜……この人、車すきなの〜」  三人は意気投合した。  郁恵が実家から出て、一年近く経ったある日のこと、血相を変えた妹が姉のところへやって来た。 「ね、ねねねっ……姉ちゃんんん、と、父ちゃんんんがぁ、た、倒れちゃったよおぉぉぉうぅぅぅッ……!!!」 郁恵「……は? 倒れた? ……どっかでつまずいて、転んだの!?」 文恵「い、いやいやいや……職場で、倒れちゃって、病院に運ばれたんだってぇっ!!」 郁恵「えっ……それは……今日が、(とうげ)とかってこと!?」 文恵「ん、んん〜〜〜……そ、そこまでじゃないと思う……けどぉ……」 郁恵「……無理してたんじゃないの、父さん。わたし、黒い服もってないんだけどな……」 文恵「……うん。無理はしてた……。く、黒い服?? ……ね、姉ちゃんがいなくなったのと、母ちゃんに冷たくされてたのが、つらかったのは確かだと思うよ……」 郁恵「……顔でも見に行ってやろっかな? ……どう思う、ふみちゃん? 行かない方がいいかな?」 文恵「き、来て、来てあげて! か、帰ってきてよ、姉ちゃん! ……父ちゃん、姉ちゃんに一目でいいから会いたい、謝りたいって……布団に潜って、ぶつぶつ言っててさ……」 郁恵「布団? なに? 家にいるの、父さん。どっかの病院にいるんじゃないの?」 文恵「家にいる……入院はしてない……病院からは帰ってきたんだけど……しゅんとして……暗くなっちゃって……俺のことはほっといてくれぇって、父ちゃん……なっちゃってて……」 郁恵「……ははーん。わかった。……会いに帰るわ。よっちゃんの車で行くね。わたしが父さんに会いに戻るってこと、母さんに伝えといて」 文恵「うん! 言っとく!」  郁恵は自らの父親のことをよくわかっていた。  良雄へ事の次第を話した郁恵は翌日、彼が運転する車で実家へと向かった。
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