5人が本棚に入れています
本棚に追加
梟はその翼を広げる(2)
「……あっ、え、栄一さん……?」と、光恵はごった返す駅で姿を見かけるや、すっかり目つきが悪くなってしまった彼へ声をかけた。
「…………? ……あ、ああ、みっちゃん、じゃないか。……大丈夫だったのかい? そっちは……」と、このときはまだ国鉄に入っていなかった栄一は相手に気付き、誰にも見せていなかった笑顔をつくる。
「ええ……あのねぇ…大変だったのよぅ……」と、光恵。
なんとか戦地から戻ってきたのにもかかわらず、父母からは放蕩息子だと厄介者扱いされていた栄一は光恵と出会い、すさんだ気分が和んだ。
……ここも重要なのである。
「無理解な両親との間がぎくしゃくしているときに異性に救われる」という点をおさえておいてほしい。
戦争に行った栄一が、生きて戻ってきたのが嬉しかった光恵は駅で彼と出会ったのを自らの親へと伝えた。
「……へ……へぇ……栄一さん……に会ったの……」と、光恵の母は驚きを隠せなかった。
出征してゆき、そのまま帰ってこれない方が多かったのだから。
光恵の母は後日、栄一の母親へと連絡を取ってみた。
光恵の母と栄一の母親は古くからの友達だったのである。
光恵の母は大農家の娘で、自身が畑に蒔いた作物の収穫に対し、輝かしい実績があった。
「わたしもいろんな野菜づくりしたけど、母さんにはかなわない……あんな小さな畑であんなにいっぱい野菜とるんだもの……」と、実の母の腕前に光恵は脱帽していた。
光恵の父は馬喰をやっていた。
馬喰とはなにか?
牛馬の良否を見分けるのが巧みな者であり、牛馬の病気を治す者で伯楽ともいう。
また、牛馬の売買・仲介を業とする者も、こう呼ばれていた。
時代を考えるとわかるが、光恵の父は旧日本軍が使用する軍馬を育てていた。
旧日本軍では白い馬は「目立つから」といった理由で避けることが多かったらしい。
馬喰が軍人たちへ育てた馬を見せたにしても、「コイツは白いからダメだ」となった。
しかし、外国の軍隊では「この馬は白いから使わない」といったことはなく、どんな体色の馬も同じように軍馬として使っていた。
最初のコメントを投稿しよう!