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梟はその翼を広げる(7)
郁恵は絵美子から聞かされた同窓会へ行ってみた。
同窓会には、郁恵のよく知る者たちが揃っている。
クラスメートだった者たちは会話に花を咲かせ、好きなものを飲んだり食べたりと楽しい時間が過ぎてゆく。
和気あいあいとした集いの中で談笑する郁恵。
その彼女を見つめ、すべてが止まってしまった男がいた。
男の名前は……良雄、といった。
良雄と郁恵は小学校から中学校の間、いつも同じクラスであり、親しい友達であった。
良雄は男女問わずに誰とでも仲良くできる者であって、どのクラスにも友達がいる……端的にいうと人気者だった。
良雄は郁恵の姿を見るや、瞬く内に胸を射貫かれてしまい、何も考えられなくなってしまった。
時空を超えた……一目惚れといってもいいだろう。
見つめる眼差しと化した良雄……彼は上の空になってしまって、郁恵とは話せないまま、同窓会は終わってしまった。
良雄は中学校卒業後、大工の親方に弟子入りし、手に職を付けた者である。
同窓会の後、良雄はちっとも現場での作業に身が入らない。
郁恵のことばかり想ってはため息ばかりついてしまい、彼は苦しんでいた。
もうどうするといいのか、わからなくなってしまった彼はその辺にあった紙へ思いの丈を書きなぐった。
乱暴なラブレターといったものであろうか?
それの最後に「時間があるときでいいから、暇なときでいいから、オレと一回あってほしい、頼む……」と書き加えた彼は恋文を封筒に入れて、卒業文集か何かで調べた郁恵の実家へと送ったのであった。
郁恵の母・光恵は家へ届いた封筒を文恵に手渡した。
「お姉ちゃんになんか届いてたわ。……ふみちゃん、あなたがお姉ちゃんのところに持っていってあげてちょうだい」
「うん、わかったよ」と文恵。
郁恵が父・栄一から平手打ちされ、家を飛び出していってから、もう数ヶ月が経過していた。
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